或る神
@Tamiya_raymay
創造録第1節1章(1) A tempo
時計の長針と短針が同じ数字を指し示し、オルゴールが鳴り始めた。
外の暗闇に背くような明るいメロディーは、部屋全体を浄化しようと試みているようだった。
しかしながら、部屋の空気を淀ませる「原因」にその音色は聞こえていなかった。それどころか「原因」は、空気を腐敗させて淀みをより濃いものにした。黒く、粘り強くて、それでいて煙のようだった。
部屋ではオルゴールだけが音を奏でているのに、静寂に包まれていた――外の静けさも相俟ってのことだったかもしれないが。
部屋にあった時計は1時間ごとにオルゴールが1分鳴る仕組みだったので、0時1分に音色のフェードアウトが止むのは当然のことだ。だが仮にこの部屋にもう1人人間がいるのなら、そのオルゴールの消え去り方は、淀みへの敗北の表れに聞こえるかもしれない。
邪魔するものが無くなった淀みはいっそう広がり始めた。黒く、粘り強くて、それでいて煙のようなものは、先程よりかは拡散するスピードは速いが、自らの持つ粘り気のせいでゆっくりとしか前へ進めずにいる。
時間をかけ、部屋の隅を目指して淀みは伝播していった。ただ、また邪魔がはいるのはそれはそれで面倒だったからか、少し急いでいるようにも感じた。
黒はだんだんと部屋を満たしていき、ついに部屋を侵食した。傍から見れば闇と同化してその部屋の存在自体認識されないだろう。
黒一色の部屋の中、「原因」は一切動くことは無かった。
振り子の原理に従って、ただ死体が天井に吊るされた縄によって僅かに揺れているだけであった。
或る神 @Tamiya_raymay
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。或る神の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます