看病をするの
台所周りの掃除をして、ご飯をセット。
とりあえず二合分はあったからいいけど……。買うように言っておかないと。
いや、本当にお誘いしようかな……? 心配だ。
ご飯が炊けるまで時間があるから、瑞貴のお世話かな……?
「瑞貴ー?」
「……うぅ」
あら、結構辛そうだ。しょうが無いから部屋に押し入るしか。
えっと、その前にお風呂場によって、洗面器にお湯を貰って……。
部屋の間取りを確認しようと色々開けたり閉めたりしていたら、
「う、うわあ……」
洗濯物が山になっていた。
暫く分の洗濯物が籠一杯になってて、凄い事に。
ええと、どうしよう。洗濯機は……外にそれらしいのがあったような。
洗剤……。とりあえず、それは置いておこう。
そこは脱衣所兼洗面所みたいで、小さな部屋の中に洗面化粧台が鎮座している。
奥の扉はアルミ製の磨りガラスがはまっていて、ぼやけたガラスの向こうに見えるタイルからそこが浴室だと予想するのは簡単だった。
扉を開けて、お目当てのものを見つけた。
お湯も簡単に出るタイプだったから、洗面器にお湯を張る。
脱衣所に置いてあるタオルの中から、綺麗に折りたたまれてるものを二枚拝借して、一枚は洗面器の中に沈めておいた。
そして、瑞貴が眠っている部屋に向かう。
畳敷きの部屋に布団が直に引いてある。周りは本だらけだ。
綺麗に片付いてない辺り、来客を迎え入れる気が無かったのがよくわかる。
漫画本だったり、小説だったり、えっちな本だったり……。隠す気も無いからもろだもろ。モザイク掛かってるけど、女の人の裸である。あそこひろげてるのもあるし。やっぱり、興味あるよね……。
でも、なんだろう……大きいおっぱいの人がいない。ええと、いわゆるロリ系みたいな……。えっとー……?
「燈佳……頼む、部屋をマジマジと見ないでくれ……掃除してねえんだ」
「ご、ごめん。だってボクえっちな本とか見た事無いから……」
掃除してないのはわかるよ! ゴミ箱にティッシュとか、総菜のパックとか入ってるの見るとね! でもティッシュの量結構おおいよね……。流石にボクでもそれが意味する所くらいは分かります。
「えっと、換えのパジャマとかってある?」
「タンスの三段目が兼用のやつ」
「わかった。体拭くから上脱いでて」
「い、いやいいよ、自分でやるよ……」
「きつそうだし、やってあげるよ!」
だって、合法的に瑞貴の体触りたい放題なんだよ?
やるしかないじゃん。
やるしかないじゃん!!
「はぁはぁ、ボクにやらせてよ!」
「……怖いな。いやそこまでいうなら頼むよ……体うごかすのもしんどいし」
「うん! 任せて!」
タンスから替えのシャツを出してあげて、お湯に浸したタオルを絞って瑞貴の背中にそれを当てる。
手に伝わる筋肉の感触が凄い……。
男の人の体を触るなんて滅多に出来ない事だし。特に好きな人の体なら余すところなく触りたい。ダメって言われるの分かってるけど、下の方も……。
「ち、ちがうちがう……」
「ど、どうした?」
「なんでもないよ!」
「そ、そうか……」
危ない危ない……。さっきのえっちな本のせいで少しそっちの方へスイッチがシフトしかかってた。
でも……好きな人の体を触れるってやっぱりいいなあ……。
熱を持った肌に、じわりと滲む汗。
骨ばった男の骨格の上に乗る筋肉。
ボク……この腕で抱きしめてもらった事あるんだよなあ……。
あの時の事を思い出してしまう。それに背負われた時に感じた背中の大きさとか……。筆舌しがたい。
「と、燈佳……さん?」
「ふ、えっ? な、なに?」
「い、いや……何でも無いんだけど、手が止まったのは終わった、のか?」
「あ、うん! 前は自分でできる?」
「背中を拭いてくれただけでもありがたいよ。休みの日からずっと寝込んでたからな……。流石に汗臭いだろ……」
ごめんなさい……結構くらくらするくらい惹かれるニオイです。
多分、男と女の感じ方の違いだと思う。
フェロモンとかそういうののせいで、同性には嫌がられるニオイでも、異性なら惹かれちゃうところあるんだ……。
「気にならないよ?」
ただやっぱり、髪がべたついてたりとかそう言うところでお風呂に入れてないんだなあってのがよく分かるけど。
風邪引いた物は仕方が無いよね。
「それなら、いいけど……」
「うん、あ、熱冷ましシートとか買ってきたから張っておくといいよー。薬はご飯食べてからね」
「……助かる。お金……」
「ううん、いいよ。誕生日プレゼントって事で!」
「ははっ……誕生日に薬貰ったのは初めてだ」
「あげたのも初めてだよ!」
いそいそと上を着る瑞貴を尻目に、ボクは瑞貴が脱ぎ散らかした衣服を回収する。パンツとかも脱ぎ捨ててあってとても新鮮です。
さ、さすがにニオイは嗅がないよ!
「何から何まですまん……」
「ボクがしたいからするんだよ、病人は寝ておく!」
洗濯物をまとめ終わって、熱冷ましシートを瑞貴のおでこに貼ってあげた。
顔が近くてドキドキしたけど、それ以上に熱くて赤い瑞貴の顔を見ていると心配の方が勝ってくるんだ。だから、寝かしつけて、布団を肩までかけてあげて、
「ご飯、できたら起こすから、ちょっとでも眠っておいて」
「すまん……」
「ん、できればありがとうの方がいいなあ」
「ははっ、助かるよ」
「うん!」
瑞貴が目を瞑ったのを確認してボクも部屋を出る。
ご飯が炊けるまでもう少しあるから、先に洗濯物を放り込んじゃおう。
色物とか柄物系がなかったから良かった。あったらいちいち分けて洗わないといけなかったし。色移りとか怖い。
一緒くたに洗っても問題無いってのは男物の特権だよねえ……。
シャツとかパンツとか靴下とか……。
もうなんだろう……瑞貴が身につけてたものって考えるだけでドキドキする。
これがあれか、好きな子の下着を拝借する人の心理……。
……そういや桜華からショーツ返して貰ってない。
それはさておき、流石に量が多いから二回に分けることになった。衣類とタオル類プラス靴下とかそう言った分け方。結構雑だけど、痛むものじゃない大丈夫! 何か言われたらゴメンナサイって言う。
一回目が終わるまでもう暫く時間が掛かりそうだから、先にご飯を作ろう。
簡単なものだから、こっちもすぐに出来上がるんだけど、ね。
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