桜華のなやみ・前
みんなと意思のすりあわせをして、プールに行くのは週末になった。
まあ、人が多いのは仕方ないだろうと諦める方向に。
「燈佳ちゃん……気合い入ってるね?」
自宅のリビングでボクは、爪の手入れをしている。
プールに着ていく服に合わせて新しくサンダルを買った。
素足で履くから爪の手入れをしないとということでボクは足の爪に色を入れている。
指の爪は昨日のうちに終わったんだけど、足は意外と難しい!
夏休みの夜は早い。今日から怠惰な引き籠もり生活の時の生活サイクルなのさ! 十時に寝て三時に起きる! 夏休みの宿題? 出された日の内に八割終わらせました。
もう寝る前という事もあって今は夏用に新しく買ったパジャマ。
ショートパンツに揃いの半袖だ。桜華ちゃん曰く、健全さの中にえろすがあってとてもいい、押し倒したい、らしい。
変態の言うことはよく分かりません。
ベースコートに、カラー、そしてトップコート。何度も失敗して拭ったりしているお陰で、サンダルと一緒に買ったカラーがもう半分まで減っている。
「変かな?」
「変じゃないよ、一生懸命なの可愛いよ」
「あ、ありがと。桜華ちゃんはしないの?」
「したら、褒めてくれる?」
「桜華ちゃんの方が上手そうだしなあ……」
ボクがそんなことをぽそっと言うと、桜華ちゃんはあからさまに落胆した様子を見せた。
ボク何か変なこと言ったかなあ。だって、自分より上手にされてたらちょっとイヤじゃない。
「ねえ、燈佳ちゃん」
「んー?」
「えっと……」
桜華ちゃんが言いにくそうにしている。
ボク達の間なら今更だと思うし、遠慮はいらないとおもうんだけどなあ。
「ん、やっぱり何でもない」
「えー……、変な桜華ちゃん」
「変なのは自覚してるけど……大丈夫、まだ我慢できるから」
「我慢?」
「き、気にしないで」
それだけ言って、桜華ちゃんはふいと顔を逸らした。
そっちだと今見てるドラマ見えないけどいいのかな。
ううん、よく分からないなあ。最近たまに桜華ちゃんが分からなくなるときがある。
元々分かりづらかったけれど、今は輪を掛けて分からないときがある。
だけど、それ自体は悪いことじゃない。
だって何かして欲しいときはちゃんと言ってくれるし、してくるし。
だから問題は無いんだけど、今日みたいな事はたまにあった。
「変なの」
「うん、ごめんね」
「気にしてないよ? 何かあったら言ってね」
「……うん」
力なく答える桜華ちゃんはますます変だった。
だけど原因に心当たりがないし……。
体調悪いのかな。うーん、まさかボクが靡かないから落ち込んでるとか……それはないか。
何考えてるんだろ、自意識過剰にも程がある。
「よし。できた!」
両足を思い切り伸ばして、指先を曲げたり伸ばしたり。
淡いピンクのカラーが上手く塗れたと思う。
指と色を合わせてみたけれど、うん、派手すぎず地味すぎず。
ちょっとは可愛い感じにできたかな。
「桜華ちゃん見てみて!」
「ん、上手に塗れてる。燈佳ちゃん頑張ってるね。どんどん上達してる」
「だって、桜華ちゃんに迷惑は掛けられないし」
「頼ってくれていいのに」
「むぅ……。だったら、明日髪可愛くしてよ」
「すぐ解くのに?」
「あ、そっか……それはちょっと勿体ないな」
あはは、ダメだー。思った以上にボク浮かれてるや。
「ううん、それでもいいならやるよ。ドライヤー持って行けば帰りの分もやってあげるし。もしかしたらあるかもだけど」
「いいの!? ありがと!」
「ううん、気にしないで。前にも言ったけど、私も燈佳ちゃんの髪弄るの好きだもん」
どこか落ち込んでたみたいだけど、今はもう元に戻ってる。
ううむ、やっぱり分からない。
頼られるのが好きって言ってるけど、やっぱりボクも自分でできるようになりたいし。その上で凄いって言われたいし。
難しい。
でも、少しだけでも元気になったならいいかな。
「なんか、最近変なの」
「うん」
「私、どうしたらいいのか分からなくて」
桜華ちゃんが弱気だ。
元気になったようだってのもボクの勘違いだったみたい。
「話聞くよ。こっちにおいでよ」
ボクはソファーを指して、桜華ちゃんを呼んだ。
談話用のテーブルにはちょっとゴミが積んであるけど、そこは無視だ。
「ん……」
短く答えて、桜華ちゃんはボクの隣に座った。
「長くなるなら、お茶入れてこよっか。暑いから麦茶だけど」
「ありがとね。お願いしてもいい」
「うん、いいよ」
ボクは席を立って、キッチンに向かい冷蔵庫から作り置きの麦茶を入れる。
氷は流石にお腹が冷えるといけないからなし。
でも、いったい全体、何が変なんだろう。
いっちゃあ、悪いけど、桜華ちゃんって元々ちょっと変だし……?
今日の夜はちょっと長くなりそうだ。
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