可愛く応援してみた
「榊さんに当たっても仕方ないよね。ごめんね」
「ん、気にしないで。たぶん、ボクが瀬野くんに特別扱いされてるのが心に引っかかってるんだよね」
「うん……」
相月さんは、顔を曇らせていた。
なんだか、可愛いなあ。あれだ、恋する乙女ってやつだ。
そんな顔を見ていたら、ちょっとしたもやっとした感じも消えてしまった。
「ねえ、榊さん、ゲームのこと教えて?」
「それは別にいいけど。ボクもそんなに上手じゃないよ?」
「嘘だあ! あれだけ有名人なんだから上手なんでしょ!?」
「どうだろ……。流石に誹謗中傷は多いけど、ボクそんなに上手だと思わないけどなあ。結構失敗多いよ。それにリリィだし」
ううん、なんというか、リアルでゲームの話、それが女の子とだなんて。
一体どうやって話を続ければいいんだろう。
難しいなあ。
「えっと、とりあえず、今日一緒にどこか行ってみる? 一応リリィだから何でも出来るよ」
「あ、うん。じゃあログインしたら教えるから、アドレス聞いてもいい?」
「いいよ」
スマホを取り出して、相月さんとアドレス交換。
なんかこんなに簡単にアドレスを交換できるなんて思わなかった。
「ありがと。えっとあたしも姫ちゃんって呼んでいい?」
「えっと、いや……うーん……、いいけど、クラスに人が一杯いるときはやめて欲しいかも……?」
「それは大丈夫! 瑞貴みたいに馬鹿じゃないから!」
瀬野くんって馬鹿扱いなんだ。
とてもよく考えて立ち回ってると思うんだけど。たぶんちょっと無理してるくらい。
もしかしたらそれも踏まえての馬鹿扱いなのかな。
「えっと、じゃあボクもひーちゃんって呼ぼうかな?」
「それはダメ。流石にダメ!」
「えー……桜華ちゃんがそう呼んでたからいいのかなって」
「あの人マイペースだし……。姫ちゃんは大変じゃないの?」
「ボクはもうなれたかな。親同士の付き合いがあるから小さい時から知ってるし。最近は度が過ぎたセクハラがね、ちょっと大変かなって……」
「レズの人と一緒に生活するのも大変なのね……」
桜華ちゃんの愛情表現はボクが男だった時からみたいだし、レズってわけじゃあないんだけど。
上手い言葉が見つからなくて曖昧に微笑んでおいた。
「緋翠ちゃん」
「なあに?」
「ううん、なんでもない。ボクは名前で呼ぶね。えっとこれからよろしくね」
「こっちこそ。じゃあ、あたし帰るね。後もし瑞貴に襲われたら教えてね、ちゃんと成敗しとくから」
あっれー? 緋翠ちゃん、瀬野くんの事好きなんじゃないの……。成敗って。それにボクが襲われるって。ないない、絶対ない。
それに例え襲われたとしても一応護身は出来るし。でも瀬野くんは大丈夫だよ。そういうことする人には見えないもん。
「燈佳くん、私ちょっと用事があるの思い出したから先帰るね。お夕飯遅くなってもいいから瀬野くんと楽しんできて」
え、待って。ちょっと待って。いきなり瀬野くんと二人っきり? 確かに話のネタは尽きないかも知れないけど、桜華ちゃんいないの不安なんだけど。
外出歩けるのか不安なんだけど……。
「大丈夫だよ、燈佳くん。さっきもひーちゃんとちゃんとお話出来てたし、瀬野くんを呼び出せてたじゃない」
思い切り不安が顔に出ていたらしい。
ボク結構ポーカーフェイス得意だったはずなんだけど……。表情筋が豊かになってるのかな……。
むにむにと自分の頬をこねてみる。結局分からないんだけど。
「もし、燈佳くんがダメになったら助けるように教えておいたから、安心して」
「ダメになったらって……」
「後これ、忘れてたでしょ」
桜華ちゃんがボクの前髪を優しく梳いて、ヘアピンをつけてくれた。
目に掛かっていた髪がどけられて視界が広がる。
途端に怖さが倍増した。
「下手に隠すから視線が集まるんだよ。燈佳くん可愛いんだから、ちゃんと出すとこださないと」
「で、でも!」
「でももだってもない。ほら、行ってくる」
桜華ちゃんも意外と人のことを恋人だなんだといいながら、スパルタだ。
ボクの意見は無視。出来れば家に帰ってゴロゴロ本を……そういや、今鞄の中に入ってるの意外全部読んだんだっけ。仕入れないと。
というか、さっきの自己紹介で聞き捨てならない事を聞いた気がする。瀬野くんのお父さんが瀬野康明先生……? たしか結構前に一冊読んだ事があるような。えっと、ありきたりだけど少年と少女が現実に打ちのめされながらも前向いて進む話だっけ。ありきたりだったのにとっても面白かった覚えがある。
後は、これからの事を考えてホームセンターにも行かないといけないかも。
机の材質を確認して、必要な物を考える。たぶん、ニス塗りだろうし、柑橘油配合の洗剤と、もしかしての事を考えて木工パテも必要だし。そしたらまたニスも必要になる。
家に帰ったら小さなカメラも発掘しないとなあ。
「分かったよ……。ボクも買い出ししないといけないのがあったから瀬野くんに荷物持ちしてもらう」
「え……女の子の買い物って長いって聞くんだけど。実際相月がすげえ長いし……」
「ん、瀬野くんも楽しいと思える所だよ」
ホームセンターは男の子のロマンが詰まった場所です。
インパクトドライバーとか、ベビーサンダーとか、機械工具みるのも楽しいし、職人さんの工具をちょっと手に持って格好つけてみるのも楽しい。
それに、包丁とかまな板とか、調理器具もあるだろうしね。
材木も置いてあるなら本棚を作るのもいいかもしれない。
そう、ボクの特技は家事全般。「家の事」なら何でも出来る。というより出来るようになった。一年半の引き籠もり中父さんに色々教わってだけど。その前から少しずつ教わっていたりしたけど。本格的に教わったのは引き籠もり中の一年半の間だ。
「へ、へえ……」
瀬野くんの顔が引きつってる。
大丈夫だよ。ボク嘘つかないから。絶対瀬野くんも楽しいところだって。
といっても、この調子じゃあ信じて貰えそうにないかな。
「それじゃあ、また家で。何かやっといた方がいいことってある?」
「あ、ご飯だけ炊いといて欲しいかも」
「わかった。じゃあね」
手を振って桜華ちゃんが教室から出て行った。
取り残されたのはボク達二人。
友達と二人っきりなんて、緊張してちょっとドキドキする。
「それじゃあ、俺たちもいこうか。あ、そのヘアピン似合ってるよ。やっぱり目元だすと印象変わるな。可愛いよ」
「か、かわいいって……ボクなんて、そんなんじゃ」
中身は男なんだから。外見は確かに可愛いけど、可愛いってのは中身が伴って初めてだよ。
ボクは中身が男だから、可愛いわけが無いんだよ。
「だから、そうやって自分を卑下にしない。素直にありがとうって受け取ってよ」
「わかった。気をつける。えっと褒めてくれてありがとう?」
「なんで疑問系。そういや、相月と何話してたんだ?」
「ん、シェルシェリスのプレイ上手になりたいって。後マスターのギルドにも入りたいって」
「まあ、相月ゲーム下手だもんなあ。タンクはまあまだやること少ないから楽だけど、たまにモブ零すのがなあ……」
「ボクあんまり組んだことないからよく分からないけど、あんまり強くないって言ったら凹んでたよ」
「実際そうだしな」
はっきりした物言いに、ボクは苦笑した。
気心が知れてるっていいな。確かにボク達も何でも言える仲ではあるけど、それはゲーム内だけだし。
今は瀬野くんが少し遠慮しているようにみえちゃう。
「あ、後俺別に、相月が嫌いだからギルドに入れてないわけじゃないぞ、リアルの知り合いをギルドに入れたら、色々面倒だろ、だから入れないようにしてたんだけど。姫さまも学校一緒になったから、うちの方針も変えないとなあ。アリアと姫さまを在野にするのは絶対に損失だ」
結構ちゃんと考えてるんだ。そりゃあそうだよね、嫌いだったらそもそも深夜の狩りに呼び出したりしないだろうし。
「別に対人に精を出してるわけじゃないし、ボクは野良に下ってもいいんだけどね」
「そんな悲しいこと言うなよ。姫さまいなくなったら誰が沙雪さんの暴走止めるんだよ」
「アリアさん」
「いや、アリアもなんだかんだで悪ノリ好きだし、そんな姫さまいなくなったら俺の負担が……。バランサーのままでうちにいてくれえ。リリステラ装備もソルローゼ装備もルナルシス装備も全部独占したいじゃんかよー」
「……全部アリアさんとボクで集めてるんだけどね?」
「虹の威力が強すぎるのがいけない。大体なんなんだよ、あれ。リリィのスキル連携、ディレイ発生までの数フレームの間にスキル繋がないと固有ディレイで連携出来ないって。あんなんリリステラ装備ないと虹とかぜってぇ無理だし」
「……そんなに難しいかな?」
タイミングの問題。
なんだかんだで、ボクはリリステラ装備なくてもリリィのスキル連携は出来るし。
リリィの虹までのスキル連携は結構手間だ。
まず基本となる大地の祝福。自身を祝福状態にする。その後片方は大地耕作、撒水肥沃、日光照射、開花と数フレームの間に繋がないといけない。もう片方は、摘播の時、萌芽の兆し、成長途中、風よけの護りを使わないといけない。全部のスキルアイコンが点灯すると、やっと終ノ型・虹が使える状態になる。
まあ、たぶん仕様なんだろうけどスキルアイコンを他の職のバフと兼ねてるから、ローズとナルシスの各ビルドを用意して、補助スキル使わせれば、リリィ一人でも虹使えるんだけどね……。二人で出来るか、PT枠全部使うかの差だし、それにリリィ二人でやればどっちも虹が使えるから火力は単純に倍だし。
「たまに上手く行くけど、大体無理だね。はあ、よし、相月もギルドに入れることにするかな……」
「そうしてあげよう。そっちの方がボクも楽しい」
「徐々に身内ギルドにすげ変わっていく。運営大変だぞこれ……」
「が、がんば」
「姫さまが上目遣いで両手合わせて、可愛く頑張ってて言ってくれたら頑張れる気がする……」
「なにそれ」
やるのは構わないけど。上目遣いって……。
うーん、こうかな? ボクは瀬野くんの目の前に立って、見上げて、両手を合わせて、
「マスター、辛いかもだけどがんばって?」
とりあえず、なんか、雰囲気に合わせて小首まで傾げてみたりして。
なんか、マスターの顔が真っ赤だけど、これは成功したのかな?
「ごごめん。思ったより破壊力が高すぎて……。やばいわ。これが笹川さんの言ってた可愛い可愛い燈佳くん状態……」
「人にやらせといて、恥ずかしがらないでよ……」
こっちまで恥ずかしくなってきた。
顔熱い。春なのになんでこんなに熱いんだ。
なんでだろう。なんか瀬野くんの頼み事は素直に聞いちゃうなあ。やってあげたいって思っちゃう。
「よし、姫さまに応援されたし頑張るわ! じゃあ、行こうか! 今から街にいけば、昼時すぎるから人も少なくなるはずだ!」
教室に掲げられた時計を見ると、十二時半近くを指していた。
緊張とか、自己紹介での疲弊とかでお腹は全然空いてなかったから気にしてなかったけど、確かに今から街にいけばお昼を過ぎた頃に到着する。
こういうのも見越して話を振ってるのかな。
気配りが凄い。素直に尊敬できる。
ボクもこういう風になれたらいいなあ。
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