女の子初心者へのチュートリアル・後

 トイレから戻ると、食器は既に片付けられてて、テーブルの上に着替え一式が置いてあった。

 ついでに、たぶんボクだけに分かる喜色満面で桜華ちゃんが待っていた。

 パジャマと新品の子供向けのパンツ、それにキャミソールとかいう奴だ。

 これ、ボクの着替えだよね。うん。


「……パンツまで買ってきてたの?」

「サイズ分からなかったから、大体の身長で選んできたの。明日服買い行くのに男物じゃなんて言われるか分からないから、ね。替えも買ってきたから汚しても大丈夫だよ」

「なんか、桜華ちゃんが意地悪なのか、ちゃんと考えてくれてるのかよく分からないんだけど」

「だって、わたしのせいで燈佳くんがそんな風になったんだもん。ちゃんとサポートはしないと」

「あ、ありがと」


 なんというか、夕方から今まで、ボクが真剣に考え込まないように色々と考えてくれていたんだなって思って嬉しくなった。さっきのトイレの事についても、下手に気負わないようにっていう配慮と、女の子が我慢したら大変だって事を教えてくれたのかも知れないし、それに男性器と女性器の差異を教えてくれたのかも知れない。なんで男性器の事を知ってるのか分からないけれど、基本男って生き物は清々しい程に下品な人が多い。ちんまんの話でゲラゲラ笑えるくらい清々しい生き物だ。中にはボクみたいにそう言う話が出来ない奥手もいるけれど。

 そして声が大きいから、必然と耳に入ったのかも知れないしね。


 確かに、この体の変化について、深く考えないようにしていた。

 それ以上に考えることがあったし、発作が起きたときもすぐ桜華ちゃんが来てくれた。

 良い方に考えるならば、桜華ちゃんはボクのことを少なからず嫌ってはいない。

 悪い方に考えるならば、ボクの両親から目を離さないように口酸っぱく言われているか。

 悪い風に考えるのはよそう。きっと好意からこうやって色々世話を焼いてくれているんだ。そうじゃないと冗談でもお嫁さんに来てなんて、好意が少しでも無いと言えない台詞だし。


「だから、お風呂レクチャーしてあげる。一緒に入るのが嫌なら、わたし水着着るし」

「流石に、ボクも裸見られるのは嫌なんだけど」


 さっきトイレで下半身だけ確認した。

 まあ、あれだよね。幼女嗜好の人にはたまらない体つきだったよね。

 でも、ちゃんと腰にくびれはあるし、お尻に丸みもある。胸だってシャツを押し上げるくらいにはちょっとはある。

 髪も顔の輪郭も、中のパーツも確認したし。客観的に見れば美少女だ。間違いなく美少女なんだ。ちょっとロリ風味が入りすぎてるのが問題だけど。


「わかった、見ない。目隠しするし。だって、ちゃんと教えないとすぐに悪くなりそうだから。特に髪とか。後お股はしっかり洗わないと臭うよ? 流石にどんなに可愛くてもお股が臭ったら嫌だし。私だって手間だと思ってるけどちゃんと手入れしてるし。それに汗が溜まるところはどうしても綺麗にしておかないとダメだよ」


 ナチュラルに爆弾発言しないで欲しい。淡々と言うから聞いてるこっちが恥ずかしくなる……。


「うーん、見ないなら……。うん、触られるのは我慢するし、近くに居るのも我慢する。見ないなら。たぶんお風呂場で近くに居られたりしたら、ボクダメだと思うから。絶対みないでね? 誘導はするから。後流石にボクも臭いのは嫌」


 引きこもりだけど、毎日お風呂入ってたし。自分の体が臭うのはやっぱり嫌だ。


「うん。じゃあ、それで。燈佳くんがでたら私が改めて入るから。あ、燈佳くんが見る分には全然構わないから。むしろ見て。興奮して」

「……桜華ちゃんの地ってそんな変態さんだったんだね。今まで取り繕ってたんだ」

「んー……。ただ口にしてなかっただけで、いつもそう言うことばかり考えてたよ?」

「はは、そう」


 どっと疲れが押し寄せて来た。

 直接的な事を口にしないだけで、なんで人ってこうも簡単に擬態できちゃうんだろうね。

 おにいさんびっくりです。

 でも、うーん、体の手入れ、か。そういうのよく分からないし、女の子の桜華ちゃんが居るなら心強い。変態なのはさておき。


「じゃあ、気が変わらないうちに行こう」

「え、ほ、ホントに?」

「うん」

「はあ……。覚悟を決めよう」


 手を引かれて、リビングから洗面所兼脱衣所へ。

 立たされたまま、流れるように服を脱がされて、髪をブラッシングされて、あっという間に裸に向かれてしまった。

 そして、まだ肌寒いこの時期の風呂場に押し込められて、


「目隠しするから、シャワー出して待ってて」


 布のこすれる音がして、非常にどきどきする。

 なんだろう。どきどきするんだけど、この足りない気持ち。


 言われた通りにシャワーを出して、浴室が暖まっていくのを待つ。浴槽にお湯は溜まっていたけれど、まだ浴室は暖まりきっていなかったのだ。


 改めて、自分の体を見下ろして、小さい体だなって思う。

 肩は撫で肩で、筋肉なんて本当にあるのか怪しい位の細い腕。手自体は小さいけれど、ほっそりとした指は綺麗な物だし、爪には艶がある。

 胸はボクの掌に収まりきる位の大きさだけど、ちゃんと柔らかさもあるし、何より男だったときと違って、胸のぽっちが少し大きい。やっぱり男と女じゃあ体の作りが違っていて、ボクの今の体は本当に女なんだなって思ってしまう。

 煩悩というか、雑念というか、無駄な思考を省く為に、シャワーを浴び始めると、浴室の戸が開く音がした。


 音で振り返ると、しっかりとタオルで目隠しをした桜華ちゃんがいた。うん、でもなんで裸……。水着の約束はどこに行ったの……。

 まじまじと見てしまった。

 発育した柔らかそうな胸、色づいた乳首、流れるような流線型を描く腰の括れに、お尻の丸み。下腹部にはしっかりと茂みがあって。女の子じゃ無くて女性なんだって意識してしまった。


「ご、ごめん!」


 慌ててボクは前を向き直る。

 顔が熱い。見てはいけないモノを見てしまった気がする。胸がドキドキ言ってて、もうなんかどうにかなりそうだ。


「ん? どうしたの?」

「な、何でも無い!」


 これ幸いにとばかりにボクは誤魔化した。多分気付かれてるだろうけれど、うう、全力で拒否すれば良かった……。


「変な燈佳くん。それじゃあ、始めよっか。えっとシャンプーは……。中が透けてるピンクのボトル取ってくれる?」

「これかな……。桜華ちゃん本当に目隠ししてるんだね」


 ボクが前を向き直った隙に取ったかと思ったけれど、そう言うことは無いみたいだ。

 そうじゃないと、ボトルの色を指定して取っ手なんて言葉は出てこない。


「そういう約束だからね」


 約束を律儀に守ってくれる桜華ちゃんに感謝しながら、裸は酷いと思うこの複雑な心の内。

 ボクが出た後すぐ入るって言ってたからその為なんだろうと思うけれど。思うけれども!


「シャンプーはこう、頭の天辺から下っていく感じで優しくね。ちょっと多めに出さないと泡立たないかも知れないから、遠慮しないで使っていいから」

「なんか、くすぐったい」

「痛むと悲惨だよ。男の子でも髪の毛綺麗な子いるし、覚えた方がいいよ。なじませたら頭皮をマッサージするように揉む感じで洗うの。髪の汚れは泡と一緒に落ちるけど頭皮の汚れはこうやらないと落ちにくいからね」

「そっか」


 がしがしと適当に泡立てて洗えばいいって物でも無いのは面倒だけど、たぶん雑にしてしまえば、桜華ちゃんに見咎められる。

 そうならないためには意のままに従うほかあるまい。それ自体が桜華ちゃんの親切なんだから。ありがたく受け取ろうと思う。

 それからコンディショナーの使い方や、気合いを入れる前日にだけトリートメントを使う方が相手に与える心理的効果が強いとか、髪の毛は女の武器であるということをレクチャーされた。

 長い髪の手入れってとっても大変だ。


「次、体だけど、ちょっと気持ち悪いかも知れないけど、我慢してね。白いボトルの取って?」


 今だけボクは言われたがままに行動するお人形です。

 言われたとおり、白いボトルを取って桜華ちゃんに手渡した。


「こ、これは覚えてもらうためだから。うん、そう。本来はボディタオル使っていいから」

「あの、鼻息が荒いんですが。もう少しその変態思考を隠して頂けませんか」


 例え人形といえど文句は言っていいはずだ。


「ひあっ……!」


 なんか背中がぬるっとした!

 待って待って。ボクまだ心の準備ができてない。


「ちょ……んん! 桜華、ちゃん。どこ触って!」

「ふふ……いい。すっごくいい。艶っぽい声を出す燈佳くんすっごいいい。たぶん今洗ってるのはお腹かな? ここからこう、優しく上に向かって。胸なんかは汗が溜まりやすいからしっかり洗ってあげないと行けないし。ふふ、うふふ」

「や、やめ……。その手付きいやらしいから、やめて。やり方教えてくれたら、自分でできるから!」


 お腹、特におへその周りを桜華ちゃんの指先が這いずり回る。くすぐったさと変な感じがしてなんか、お腹の奥がむずむずする。

 それから手がドンドン上に来て、胸を揉むように撫でてくるし。ぬるぬるとくすぐったさと、変な気持ちが合わさって。なんかいやだった。


「そんなこと言わずに。うふふ」


 桜華ちゃんが暴走した。

 酷い。蹂躙だ。

 胸を執拗になで回され、そのまま鎖骨、脇と汗や汚れが溜まりやすい場所を執拗に素手で洗われて、またお腹に戻ってくる。

 そのたびに、ボクは口から自然と漏れる変な声に、冷や汗をかいてしまって。自分でもどうしてこんな艶めかしい声が出るのかわからない。

 桜華ちゃんはそれが良いとか。男の子の声で聞きたかったとか言ってたけれど、ボクにとっては今はそれどころじゃ無い。羞恥で卒倒しそうだ。


 そして、桜華ちゃんの手はお腹から今度は下の方に。


「ん、堪能した。流石に下は私も恥ずかしい。自分のは出来るけどたまにエッチな気持ちになるし……。人のやったら我慢できる気がしない」

「我慢できる気がって。一体何をする気なの……」

「えっちなこと。ずっと燈佳くんとしたいって思ってたから」


 それは光栄な事なんだろうけれど、今、この場面でいう事じゃ無いと思う。

 そこから、暴走は止まって、真面目なトーンでデリケートゾーンのケアは大事だとか何とか言って、やり方を教えてもらいながら自分で洗って。

 なんか少し割れ目が開いてぬめってた。桜華ちゃんはそれについては何も教えてくれなかった。まだ早いって。後顔赤くしないで。やったのは桜華ちゃんなんだよ!?


 もう本当になんなんだろう?

 大事なことはよく分かったけれど、ボクが辱められる理由って一体何なの。

 そのままシャワーで洗い流されて、とりあえずボクの初めてのお風呂は終わった。蹂躙されたという結果しか残らなかったけれど……。

 桜華ちゃんが手早く洗い終わるまで、お湯に浸かって待った。決して洗ってる所は見ないようにした! 桜華ちゃんはとても残念がってたけど、ボクにだって理性くらいはあるから。


 けど、地獄はまだ終わっていなかった。

 ボディクリームってなんなの。お洒落アイテムがどこそこから飛び出てきて、もうボクのキャパシティはオーバーして久しいんですが。

 目は虚ろだった。もう成されるがままにして、説明をとりあえず頭の片隅において。

 洗顔とか、化粧水とか乳液とか。馴染みの無かった物がいっぱい押し寄せて来て、なんかもうどっと疲れた。


 その後なんとか、あてがわれた自分の部屋に戻って、ベッドに倒れ込むとすぐさま意識が途絶えてしまった。

 なんかもう、女の子ってとっても大変だ。

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