女の子初心者へのチュートリアル・前

 今日の料理も美味しく出来た。

 桜華ちゃんも喜んでくれたし、しきりにお嫁に来てとかなんとか言ってくれていた。

 黒猫さんは、いつの間にか居なくなってて、結構綺麗な字で書き置きが置いてあった。


『君たち二人をかんしするためのじゅんびをしてくるね』


 難しい漢字は書けないみたいだけど、なんだろう、この一言に込められたとても不安感を煽る物は。


「気にしなくていいと思う。それより燈佳くん、そろそろトイレ行きたくならない?」


 いや、待って。桜華ちゃん、一体何をしたの。

 なんでそんな期待に充ち満ちた顔をしているの?


「急にどうして?」

「お風呂の方が先かな? それともお風呂場でしちゃう派?」

「ねえ、桜華ちゃん、待って。ボク、人に見られながらする趣味は無いから」


 いったい全体、何のことを言っているのかと思えば、おしっこの話だ。

 さっき女の子初心者とか言ってしまったせいで、桜華ちゃんの中でトイレトレーニングとお風呂トレーニングをしなければという使命感がわいてきちゃったのかな。

 いい迷惑だよ! 全く!


「無いの? 私は恥ずかしがってる燈佳くんの顔が見たい」

「とんだ変態さんだね。ねえ、もしかして今までずっとそう言うこと言うの我慢してた?」

「むう、ずっとアプローチしてたのに……あわよくば既成事実を作ろうと……」

「なにそれ、初耳なんだけど……」

「くっついたりとか、お風呂一緒に入ったりとか、色々やってたのに、全然気付いてくれなかった」

「あ、ああ……。ボク何度も止めてって言ったのに止めなかったのってそう言う理由があったんだ」

「なんで手を出してくれなかったの?」

「いや、だって、そういうのまだ分かんなかったし……。それになんか胸とか膨らんできてるの見たりしたらいけない気がして……うぅ、何言わせるんだ……」

「意気地なし」

「それを言われると、ごめんなさい」


 一体何の話をしてたんだっけ……?

 そうだよ、ボクを辱めるかどうかの話だよ。

 だいたいなんで、お風呂はさておき、トイレまで付き添われないといけないんだ。

 ボクは要介護者じゃないのに!!


 あ、まずい……。

 トイレのこと考えてたら行きたくなってきた。

 どうしよう、今行ったら絶対桜華ちゃんが着いてくる。なんとなく嬉々として着いてきそう……。

 背に腹はかえられないけど。


「もじもじしてどうしたの?」


 桜華ちゃんの顔は全てをわかってますと言わんばかりだ。

 うう、いつもならここからまだ我慢できるけど……。

 体の造りが違うから多分もう持たないんじゃなかろうか。

 なんかそういうのをどこかで見た事がある気がする。興味本位で調べた男女の体の違いだったかな。小さい時に見て凄くドキドキした覚えがある。


「トイレ行ってきます。桜華ちゃんは着いてこないで大丈夫だから!」

「大丈夫?」

「何とかなるよ、小の方だし……」

「終わったらちゃんと拭かないとだめだからね」

「え、そうなんだ?」

「うん」


 桜華ちゃんが体の違いを事細かに教えてくれた。

 女性器の上から順番に付いている物を教えてくれて、膣に雑菌が入ると危険だからとか、拭かずにそのままいると蒸れてかぶれるとか。

 臆面も無く言ってくるから、聞いてるこっちが恥ずかしくなった。

 なんというか、しっかり手入れしないと、後が怖い。それだけは分かりました。

 ちゃんと最初から教えてくれれば、ボクこんなに恥ずかしい思いしなくてもよかったんじゃないのかな。

 たぶんそう言うのも含めての意地悪なんだろうけど。


「はあ……」


 トイレで一人、用を足しながら考える。

 男と女じゃ、おしっこの飛ぶ位置も違う。音も勢いも全然違う。

 だからなんだという話なんだけど、パンツを下ろして自分の股間を確認するまで、まだ小さいながらおちんちんが付いていると思っていたのに。

 無かった。完全に無くなっていた。

 あるのは割れ目だけ。その上にはうっすらと髪の色と同色の茂みがあって、なんというか、直視したくない現実を突きつけてくれる。

 自分で触ってみたけれど、丁度、おちんちんが合ったところにあるのがクリトリスで、割れ目の中に尿道口や膣があるみたい。

 本当はもっとずっと先で、ボクに好きな人が出来てその人とえっちな事をするときに知るであろう情報が、ショートカットして蓄積されていくのは本当に複雑な気分だ。


 なんで、トイレで下半身露出してるんだろうって思わなくも無いんだけど、やっぱり自分の体がどうなってるのかっていうのは気になるし。

 桜華ちゃんに借りた服は着ている物の、着るだけで手一杯になって、まともに自分の体を見ていなかった。

 やっぱり、元々あった場所に合ったモノが無くてすとんと緩やかな曲線を描いているのは本当に不思議な感覚だ。

 太股は細いながらもしっかりと張りがあって、触れば柔らかな感触を返して来る。硬いとか骨張っているとかそういう感じはしないんだ。

 小さい頃、母さんの膝枕で耳かきをして貰ったときの柔らかさを思い出す。ああ、あれが女性特有の柔らかさだったんだなあ……。


「うーん……」


 トイレットペーパーで股間をしっかりと拭きながら、これからどうしようかと考える。

 そう思っても次はお風呂だ。こればっかりは桜華ちゃんの乱入は阻止出来そうにない。どうしようという前に諦めの境地に辿り着かないといけない……。

 気が重い。正直気が重い。やっぱり人に裸を見られるのは恥ずかしい、出来る事なら見られたく無い。

 昔から可愛い感じだったけど、久しぶりに会った桜華ちゃんは綺麗になってて、顔なんてあまり見れた物じゃないし。スタイルも良いから恥ずかしくてボクがどうかなってしまいそう。

 今度聞いてみようかな、なんでボクなんだろうって。教えてくれるか分からないけど。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る