第8節

 『旅人』は病院の一室らしきある部屋に一人の男を連れて来た。部屋には旧世代のゲーム機Xbox360があった。

 『旅人』が男に言う。

「さあ、あなたのやりたかった鎧を脱がせるゲームがあります。これで遊びたかったのですね。」

 そのゲームは『ソウルキャリバー4』だった。

 男が答える。

「私は通信対戦とかには興味がありません。対戦ゲームを遊ぶ友人もいません。でも、幸いにこのゲームにはキャラクタークリエイションという鎧の着せ換えや着色でキャラクターを作る機能があります。これで遊びたいと思います。」

 何日かしたあと、『旅人』は男のもとを訪れた。

「何かできましたか。」

「世界を創造しました。世界を二次創作したのです。」

「狂ってる。着せ換えで遊んでいたのにどうして世界を創造できるのです。」

「神は多神教の神々を救うその依り代を求めていらっしゃるのです。その物語を二次創作したのです。」

「そんなわけありません。しかし、とにかく説明してもらいましょう。」

「はじまりは『バビル二世』なのです。そのロデムは何だろうと考えるうちにこれはル・アダムと読めることに気付きました。アダムは旧約聖書の創世記に出てくる最初の人類の名前で、アダムは同時に塵から創られた大地を表します。それに定冠詞らしきものを付けるということは、地球も表すと考えました。そう考えたとき、私の心に浮かんだのは、むしろ『∀ガンダム』のロランらしき人物で、ただその後ろ姿の髪は青く、結って風にたなびいていました。しかし、いろいろやっているうちにロランというよりは初代『機動戦士ガンダム』のアムロのようになってしまったのです。それがはじまりです。」

「なんですか、それは。『バビル二世』や『ガンダム』とやらは、アニメやマンガなのですね。ちょっと私の頭の中を調べてみてやっとわかりました。そういう言及は時代とともに廃れてしまいます。全国的な再放送が難しい世の中ですから、すでに忘却されようとしているとも言えます。同じ地域の同世代の者にしかわからない話題なのですよ。わかっていますか。それを神々の依り代だなんて無理にもほどがあります。」

「しかし、物語に結び付けられているから、象徴としては豊かなのです。もし、私の言及が後世に残るなら、それによってその作品の情報が残ることになるかもしれません。そうなれば、元の作者にも得なことでしょうから、そこに二次創作としての成功がありうるのです。」

「二次創作は得か損かで合法性が決められることがらではないのですよ。」

「では、こういう言及はダメなのですか。」

「こういう言及が本になっていると仮定しましょう。幸い、文章の引用は合法的にして良いことになっていますし、タイトルやちょっとした紹介は著作権に触れる物ではありません。しかし、続編と受け取られるようなものにまで創り上げてしまっては同一性保持権の侵害になることがあります。」

「それぞれの作品の次の作品となることはありえません。自分としては二次創作のつもりですが、仮に本となっている場合は、厳密には二次創作と呼ぶほどのことはなく、象徴的な言及に留まっていると思います。大きく次の時代、次のどこかの世界の時代を創ることはあるかもしれませんが。」

「まぁ、それらの心配はなくていいのでしょう。それに別に許可があれば、この言及に画面写真や作品画像が添え付けることも可能です。もし、そういうもの、例えば、『ソウルキャリバー4』での各二次創作キャラクターの写真や、当時のアニメや特撮、マンガ等の紹介画像が付いていれば、この言及は、文章の引用以上の権利処理がなされているということでしょう。」

「本当ですか? ならば安心して続けましょう。」

「長くなりそうですね。」

「『バビル二世』から二人目は敵のヨミです。ヨミは男ですが、女として夜見姫という名前で作りました。別にリリスという名も与えます。リリスはユダヤ教の伝説でイブの前にアダムの妻となり、その後、呪いによってか悪魔となったものです。『新世紀エヴァンゲリオン』の綾波レイを意識して作りました。幽霊体の悪魔のように肌の色を光を通すような闇を感じさせる白にしました。」

 男は続ける。

「三人目はロプロスです。ロプロスは人間登場以前の『知性』をも象徴しており、それは恐竜が鳥へと進化したところの秘密などを象徴しています。女として作りました。名前としてはノット・プラス、プラスでない指向で進化を促す者といったところです。私にとって遠い存在を表す赤髪のキャラにしました。」

 男は続ける。

「四人目はポセイドンです。ポセイドンはフォールス・オーディンで、偽の神といった意味になると考えました。しかし、神であるとだますのではなく、現れない唯一神に代わって神の責任を負おうとする者としてむしろ善性の者と考えて作りました。ヒゲのおじいさんで、夜見姫と同じ神性を象徴する水色髪を持たせています。」

 男は続ける。

「次はバビル二世本人が来るべきところですが、そうせず、五人目と六人目に『超人ロック』からロックとナガトを作りました。超能力者のロックは私にとっては別の世界からシンボルを通してこの世界に超能力を通じて介入してくれるものなのです。ナガトは銀河皇帝で銀河コンピュータの存在と結びついています。ロックは本来、男ですが女のイメージで作りました。作ったときその鎧を『新世紀エヴァンゲリオン』の初号機をイメージして色付けをしました。ロックまでのキャラは、男には女の剣術流派、女には男の剣術流派を割り当て、少し両性偶有的になっていたのですが、ナガトは男で男の剣術流派を持つストレートな者にはじめてしました。」

 男は続ける。

「ロデムからロックまでが第一世代、第二世代として先に挙げたナガトを作り、次に『魔法のプリンセス ミンキーモモ』からモモ、『バイオレンスジャック』からジャック、『宇宙の騎士テッカマン』からアンドロー梅田、『GREY』からグレイを作りました。モモは空モモで、ロプロスを継いでいます。グレイは、機械化を受け容れいろいろ捨てていくという感じを出したかったのですが、その結果、『ストリートファイター4』のC.ヴァイパーのイメージと重なりました。グレイは『新世紀エヴァンゲリオン』の二号機的位置付けだとも考えています。」

 『旅人』がここでやっと口を挟んだ。

「第一世代、第二世代というのは何ですか。第二世代は第一世代の子供なのですか。」

「生殖的にできた子供ではありません。ただ、霊的に前の世代との交流・交配の結果、次の世代に子のように生まれていると考えます。」

 男は続ける。

「第三世代は、『ラ・セーヌの星』からシモーヌ、『ふしぎ魔法 ファンファンファーマシィー』からポプリちゃん、そして『超人バロム・1』からバロム・1、ただし、バロム・1が二人の子供が変身して一人のヒーローになるのにあやかって、一人のバロム・1というヒーローに二つの印象の違うキャラを作りました。その一方のバロム・1は人間じゃない肌の色を持っていて、どこか別世界から来たことを思わせます。さらに第三世代を続けて、『新世機エヴァンゲリオン』から零号機にあたる者を作りました。男性キャラの女性キャラ化はこれまで何どもやっていましたが、女性キャラの男性キャラ化は零号機が初めてでした。零号機といっても綾波レイにちなんでいるからそう呼んでいるわけで、色合いは、初号機のカラーリングに近いです。」

 男は続ける。

「第四世代は、『となりのトトロ』からトトロ、『赤毛のアン』からマリラ・カスバート、『UFO戦士 ダイアポロン』からダイアポロン、『X-MEN』からウルバリン、『ジャングル黒べえ』から黒べえ。黒べえはおそらく男キャラだが美型の女キャラに作りました。黒べえの別名はB.Bすなわちビッグ・ブラザー、小説『1984』の監視者から名付けています。『新世紀エヴァンゲリオン』の三号機にあたります。」

 男は続ける。

「第五世代は、『コスミック・バトン・ガール コメットさん☆』からコメットさん、『新世紀エヴァンゲリオン』から量産型エヴァ、『仮面ライダー スーパー1』よりスーパー1、『六神合体ゴッドマーズ』からロゼ、そしてオリジナルキャラのかなみ。他の『新世紀エヴァンゲリオン』のものと違って量産型エヴァは、他のヒーロー枠を使って出しています。最後のかなみは私が上で作った『新世紀エヴァンゲリオン』の各号機の『最終形』を描こうとしたもので、量産型エヴァのキャラを元に作りました。これが最初のロデムであるアダムに対するイブとして私が出した答えになります。」

 『旅人』が言う。

「それで終りですか。キャラクターを並べたところで、何も伝わりませんよ。」

「例えば、男か女かに注目してください。第一世代から第四世代までは各世代で男女のバランスが取れています。そこまではまた男女同数になってます。第五世代までで二十五のキャラとなるのですが、奇数なので一人、男か女かが余ります。男一人または女一人余るよりも、女三人余ったほうが力を合わせやすいだろうと、第五世代は男一人に女四人になっています。各世代の各キャラクターを左から右に、世代を縦に並べたときの縦の列にも注目してください。夜見姫から量産型エヴァの列は女のみになっています。ロプロスからスーパー1の列は、ロプロスのみ女で他は男となっています。ポセイドンからロゼの列は、ロゼのみ女で他は男となっています。ロックからかなみの列は、零号機のみ男で他は女になっています。これは意識してこうなったわけではありません。順に作りながら男女の数は意識しましたが、縦の列は、偶然そうなっていたのです。」

「でも、それが何を意味するかはよくわからないのですよね。」

「そうです。」

「あなたの中には何か意味が、物語が生まれたのかもしれない。でも、あなたはそれを表現できなかった。そんなものは依り代にはなれないでしょう。」

「このキャラクターを使って対戦することを神事としていって欲しいのです。」

「誰がそんなことをしてくれるというのです。目を醒ましなさい。あなたは時間をかけさえすれば、優れた物をいつか創れると思っていました。ですが、できたのはせいぜいこの程度のものです。これではあなたが心の底では夢見ていた特別な注目を浴びることなどできません。」

「じゃあ、私がこのゲームにかけた時間は無駄だったというのですか。」

「すべての努力が報われるわけではありません。神の救いというのも、努力に対してなされるというのとは少し違うのです。あなたは怠惰でした。怠惰を責める地獄は特にありませんが、今後、もっと他人に対して何か勤勉な行いをして、怠惰を埋め合わせようとしなければ、あなたは見捨てられたままでしょう。」

「ゲームをしているうちは狐独を忘れられましたが、私はまた狐独に戻るのですか。集団の中にいて、私は狐独なのです。」

「あなたに対する救いは今のところこの程度なのです。すみません。しかし、あなたがこの『地獄』で変わる必要があるのです。今回、私はむしろ甘やかしてしまったのかもしれませんね。」

 男はゲーム機の置かれた個室から追い出され、集団生活の大部屋に移された。

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