最終面接

神宮司亮介

最終面接

――俺に残された希望は残り一つしかない。そう、これしかないんだ。


新卒採用の波に乗ったはいいが、大企業へのエントリーシートは通らず、そのまま中小企業の選考へ進むも、大企業の面接で鍛えられた奴らがアピールに成功する中、俺は唯一胸を張れることだった飲食店のバイトのエピソードで対抗し、結果敗北した。

そんな俺に残された最後の一手。

 俺が最後の希望として縋った会社……その仕事の内容としてはコンサルタントに近いらしく、悩みを抱えているクライアントの手となり足となり、支える仕事らしい。

 さらに、給料は年俸制だが、若くして数千万を稼ぐ社員だっているらしい。強いて言うなら、クライアントに合わせた業務内容になるらしいので祝日数が未定である事と、説明会が開催されておらずエントリーシートと健康診断書の提出だけで最終面接まで進めたのが、気になるところだ。と言っても、もう新卒採用が終わる二度目の春に、最終面接をしてくれることがありがたいのだ。

思ったよりもこじんまりとした通りにある、こじんまりとしたオフィスに入ると、早速『面接会場はこちらです』の看板がある。その方向に向かうと、俺の目の前には白い

扉が待っていた。俺は一息つくと、扉をノックする。「どうぞ」の声が返ってきた。

扉の向こうは、それはそれは、真っ白な部屋だった。そんな部屋で面接をしたことは少なくなかったが、窓も時計も、壁に飾られている絵すらない。本当に真っ白な部屋なのだ。



そして、そんな部屋の中央に用意された、これまた白い椅子と、白いテーブルの向こうに座っている、黒いスーツの男性社員の姿が目に入った。穏やかな笑みを浮かべている彼は、「どうぞ」と椅子の方へ手を差し出してくれた。

俺は「失礼します」と声を上げて椅子へ向かった。この姿も見られていると思えば、身体中が緊張で張りつめて張りつめて仕方ない。

「今日はうちの会社へ来てくれてありがとう。君には実際、会ってみたかったんだよ」

男性社員は淡々と言った。ふと思ったことは、社長じゃないのかと言うことだった。サイトに掲載されていた写真の人物は恰幅が良く、誰もが想像できる気前の良さを感じさせる風貌だった。しかし、目の前に座った男性は特徴のない、一般の社員という印象だった。

とはいうものの、社長は忙しいのかもしれない。体調不良でたまたま来れなかったのかもしれない。どうだっていい。俺にはこの面接が最後の希望なのだから。

そこからは簡単な自己紹介を添え、志望動機を言う。グローバルに活躍している企業ということもあって、そこで働くやりがいを感じるという、当たり障りない言葉で片付けた。社員の方も、軽く頷いてくれている。

「ふうん……そうだね。健康状態にも問題はなさそうだし、うちでもよくやってくれそうだね」

予想外のところを見られた。前に出した診断書には確かに、病気はおろか欠点になる要素は一切なかった。昔から体力には自信があったものの、こんなところで発揮されるとは思っても見なかった。

「ありがとうございます、身体の強さが、私の取り柄ですから」

もうひと押し、そう思っていたが、社員の方の表情はとても明るかった。

「出来れば、僕は君を採用したいんだ。こんな時期になるまで、君のような人材が残っているなんて夢のようだよ」

魔法の言葉があるとしたら、まさにこの言葉だった。必死に頑張って来て、それでも評価されなかったこの一年間。その苦労が報われる言葉をかけられ、俺は泣きそうになった。

「あ、ありがとうございます!」

「君から質問はないかい?」

感動の一瞬も束の間、逆質問の時間がやって来た。ここは重要なアピールチャンス

だ。しっかりと質問しなければ。俺は気を引き締めた。

「そういえば、昨年新卒で入られた方の働き方を聞きたいと思っていたんですが」

「そうだねぇ、去年入った子だと、早速海外を飛び回った子が居てね。彼はハートが誰よりも強かったから」

「お会いすることって出来ますか?」

「残念だけど、今は無理だね。機会があれば、是非会わせてあげたいよ」

「はい! ありがとうございます! 是非、御社で働かせてください!」

「こちらこそ。良い人材を発見できたよ、ありがとう」

 さらっと先輩の情報を聞くことが出来た。それに、最後の〆の言葉も非常に好印象だった。俺は勝利を確信した。



 翌日、無事に内定通知が電話を通じて届いた。

 俺は嬉しさのあまり親や友人に涙ながら発表し、これからの抱負を語った。もう何も怖くない。これからはしっかり、俺の人生を歩いて行くぞ、気持ちは最高潮だった。

そして、その電話の中で早速健康診断の連絡もあった。向こうから車が出て、病院へ連れて行ってくれるそうだ。いたれりつくせり。こんなところで働けるとは、俺も嬉しい限りだ。 ――ホント、頑張ろう、俺。



















『うちの社員はすごく働き者でね、世界中で色んな人の手となり足となり、血となり貢献しているんですよ。先日新入社員が入ってきましたけど、彼も非常に頭が良くてね、今頃アメリカでその力を発揮しているのではないでしょうかね……』

「このようにおっしゃっているのですが、まさかこのような事件が起こってしまうとは……」

「まさか彼も、正真正銘の【人材】として扱われるとは思ってもみなかったでしょう。御親類の方が、どれほど悲しい思いをされているか……想像もつきませんね」

「そうですね。連日報道されている人身売買についてのニュースはまた後ほど、特集させていただきます」

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最終面接 神宮司亮介 @zweihander30

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