第5話 ダンジョン・ヒルズの日々

 その一ヵ月後、ダンジョン・ヒルズの一画、外民区では一騒動が起こっていた。

 今まで歴史の影に埋もれていた謎の人物、ギブリゥが残したとされる禁断の書物“ギブリゥの遺言”が発見された、というニュースは、最初どういったことかわからないという風情だったが、見識者たちの口伝えで次第に大きくなり、それは一大ニュースとしてディバリア王国を席巻した。

 それはこのダンジョン・ヒルズばかりか、王都であるディバルドまで届き、その書物の獲得を巡り王都の魔術大学をはじめ、好事家の貴族や高名な魔術師たちまでをも巻き込んだ一大争奪合戦が演じられることになった。

 外民区にある高級な魔導書や書籍などを扱う書店「リーボック古書店」には連日着飾った貴族や魔術師、またその従者たちが訪れ、巷では到底お目にかかれない金額が入った袋やケースを持ち込んでは、店主のリーボック相手に激しい売買ゲームが演じられた。

 リーボックも強かなもので、より高い値がつくかもしれないと見るや押し、また、逃げるかもしれないと見るや引き、という駆け引きを楽しみ、その値段を法外なものへと吊り上げていった。

 それを聞き、リーボックに“ギブリゥの遺言”を売却したローレンは半ば呆れ顔で、

「あの古狸のオヤジのことだ。きっと上手くやるだろう」

 そう言うと、次の冒険に備えて図書館での資料集めに奔走していた。


 一方、「ガーウィッシュ・パイ」のカウンターで店番をしながら、一連の騒動を耳にしたエリナは、少し微笑みを浮かべていた。

 あの“ギブリゥの遺言”を見つけたのは自分たちであることを、そして、それを持ち帰ったのも。

 彼女たちのことを、一般の人たちは知らないかもしれない。

 だが、確かに自分たちはその冒険に携わっていたのだ。

 ふと、カウンターの端に置かれた小さな天使の人形に目をやる。

 それはローレンが別れ際にくれたものだった。

『たぶん、お嬢さんなら気に入るんじゃないかな?』

 ローレンの温かい言葉と、その可愛いらしい表情の天使の姿をした人形。

 今まで自分たちを冒険者としてみてくれないものたちは多くいたが、あのときのローレンだけは違っていた。

 ローレンは別れ際にエリナの手を握り、

『あのときの戦いぶりはよかったよ。あそこで逃げられていたら、俺もただではすまなかった。感謝している』

 そういうと、にこやかな笑顔をくれた。

 その顔にはいつもの皮肉な色は浮かんでおらず、真摯な、彼女が知る限りでは一番真摯な表情のローレンが笑顔があった。

『また、一緒に冒険できるかな……』

 ふと、右手で天使の人形の羽をいじる。

 すると天使の人形は軽く回転し、その穏やかな微笑みをエリナに向けた。

 エリナもつられて、また微笑を浮かべる。

 またあのときのように、心躍るような冒険がしたいな……

そんなことを思っていたとき、店の扉が威勢よく開いた。


「エリナ~! またいい話があるんだけど!」


 その背は子供にしては大きく、若者にしては小さい。

 少し縮れた鮮やかな金髪に、その両脇にちょこんと立った猫を思わせる耳。褐色の肌に愛くるしい顔の少女は、満面の笑みを浮かべながらエリナに話しかける。

その少女のいつもの声に、エリナも満面の笑みを浮かべながら応えた。

「アラ、リリット! また冒険のお誘い?」


 こうして、今日もまたダンジョン・ヒルズの日々は過ぎていくのだ。


                  ダンジョン・ヒルズ・ストーリー(END)

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ダンジョン・ヒルズ・ストーリー パンプキンヘッド @onionivx10

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