ドイツの素晴らしすぎるクリスマス事情

二十四話:『ドイツのクリスマスは世界一ィィィ! (クリスマスの特別な飾り付け編)』

ドイツと言えば一体何の国か、そう問われれば人は一体なんと答えるだろうか。前述の通り、ドイツはビールの国であり、パンの国であり、鉄道の国であり、そして車の国でもある。しかしドイツはそれだけではない、実はクリスマスの国でもあるのだ。

 これはあまり日本では知られていないが、ドイツ人はクリスマスにかける情熱がダントツに高く、ヨーロッパの中でも他の追随を許さない。ではそこまで言われる世界随一のドイツのクリスマスとは一体どのようなものなのか。そしてドイツ人が何故クリスマスにそこまで情熱を燃やすのか。これにはドイツの冬の気候が影響していると言われているそうな。

 ドイツの冬は文字通り『暗くて冷たい』。日本の冬であれば小春日和のような快晴が続き、スペインの冬でも陽光が燦々と降り注ぐ。しかしドイツの冬空は常に雲に覆われ、青空がその姿を見せることはほとんどない。実際冬に青空を見る機会は皆無であり、晴れている日であっても靄がかかったようなくすんだ空が広がるばかりである。青空が全く出ない、しかも寒い。そんな日が数ヶ月続く。するとどうなるか。とにかく気が滅入るのである。陽光と鬱との関係は古くから指摘されてきたが、なるほど納得である。多くのドイツ人が冬を忌避する理由の一つである。

 そんなドイツのそんな暗く冷たい冬を照らす一筋の光明こそがクリスマスなのである。クリスマスはキリスト教文化圏ではとても大事な日とされ、信心の深さに関わらず殆どの西洋諸国では特別な日とされる。日本と違っているのはクリスマスは別に恋人たちが愛を語らう日ではなく、家族や親戚縁者が集まって過ごすいわゆる日本のお盆や正月三が日に近い位置づけである。誰もが家族と過ごし、お互いにプレゼントを交換する。例えばそれがフランスなら朝から晩まで大量の料理とワインに囲まれてひたすら飲み食いを続けるのだが、程度の差はあれどドイツでも似たようなものである。さて、何が言いたいかというと、クリスマスはとても大事な日なのである。

 しかしいくらクリスマスが大事とはいえ、どうしてそれが暗く冷たい冬を払拭する光明になるのか、という疑問に繋がる。結論から言えば、クリスマスそのものはドイツの暗い冬を照らす光明にはなりえない。では一体どういうことなのか。クリスマスが一年のうちのたった一日しかない。これではとてもじゃないが冬を乗り切れない。ではどうすればいいのだろうか。ドイツ人は考えた。そうだ、クリスマスまでのカウントダウンをお祝いすればもっと長く楽しめるじゃない、と。実際にはとあるドイツの孤児院に端を発する風習との見解もあるが、細かいことはドイツ人にとってさほど重要ではない。

 ドイツではクリスマスから逆算して四週間分の日曜日を含む週をアドベント(advent:再臨。この場合はクリスマスの到来を待つ一ヶ月間と理解してもらって問題ない)と呼び、その日からクリスマス(降誕祭)までを祝う風習が存在する。アドヴェントが始まるとそれぞれの家庭はアドベント・クランツ(ADVENTS KRANZ)と呼ばれる針葉樹で出来たリースを飾る。このアドベント・クランツには4つのろうそく受けが付いており、それぞれのアドベント(第一〜第四日曜日)が来るごとに毎週一本ずつキャンドルをこのアドベント・クランツに灯すのである。クリスマスが近づくほどアドベント・クランツに灯されるキャンドルが増えていく。それは同時にクリスマスへのカウントダウンにほかならない。クリスマスまでの待ち時間を楽しむ、いかにも西洋らしいお洒落で風情のある楽しみ方である。

 さて、第一アドベントになると各家庭はアドベント・クランツを飾り、クリスマスの到来を意識し始める。これからがドイツのアドベントの真骨頂である。家の中はクリスマス用の装飾に切り替わる。スーパーの商品はクリスマスカラーに置き換わり、店の外ではクリスマスツリー(生)が販売される。ドイツではプラスチックの小さいツリーなんて使わない。モミやマツ科の針葉樹の生木をそのまま飾り、装飾を施すのである。つまり各家庭に一本モミの木が必要になる。アドベントが始まるとスーパーはいつの間にかガーデンショップの様相を呈することになる。そしてお父さんたちがモミの木を子どもたちと一緒に楽しそうに家まで運ぶのである。

 さて、アドベント・クランツは用意して、キャンドルも用意した。クリスマスツリーも用意した。では次に何が必要か。大人も子供も大好き、アドベントカレンダーの出番である。これはカレンダーのそれぞれの日付のところに小さな小窓が付いており、その中にチョコレートや飴が入っているものである。例えば今日が12月1日なら対応する日付のところの小窓を開く。するとお菓子が手に入る。次の日になったら次の日に対応する小窓を開く。するとまた違うお菓子がもらえる。こうして毎日日替わりでお菓子を楽しめる魔法のようなカレンダーがアドベントカレンダーなのある。アドベントカレンダーの中身はお菓子が主流で、主に子供の為のアイテムという側面が強い。しかし侮ることなかれ、大人のためのアドベントカレンダーも存在する。

 その種類は多岐にわたり、例えばウィスキーボンボンのアドベントカレンダーもあれば、化粧品や香水が入っているアドベントカレンダーもある。ちなみに筆者は日替わりで世界中のビールが楽しめるアドベントカレンダーを使ったことがあるが(もはやカレンダーではないが……)、あれはなかなか素晴らしいアイデアだと感心した記憶がある。ちなみにビールが四週間分なので、カレンダーというより箱そのものであるのはご愛嬌である。そうしてあの手この手であらゆるものがアドベントカレンダーに詰め込まれる。ドイツ人のアドベントを楽しもうとする執念を侮ってはならない。

 ビールの他に思い出深いアドベントカレンダーとしては、ハーブティーが入ったアドベントカレンダーがある。ドイツのハーブティー文化の奥深さに感心するとともに、毎日違った出会いがあるので今日はどんな味のお茶なのかといろいろ想像する楽しみもある素敵なカレンダーであった。ちなみに薬局に行けば普通に買えるのでおみやげにも好評である。個人的に強くお勧めしたい一品である。

 さて、こうしてドイツの家の中では来るクリスマスに向けて着々とテンション(お祭りムード)が高められていく。では家の外はどうか。正直家の中の比ではない。まず各地にクリスマスマーケットが開かれる。このクリスマスマーケットはドイツのクリスマスを代表する風物詩といえる。これは日本やアメリカのようなスーパーや百貨店によるセールなどではなく、文字通り突然通りに小さな木の小屋が立ち並ぶマーケットが出現するのである。このマーケットこそがドイツの暗く冷たい冬を照らす光明であり、喜びであり、希望である。全てがそこにあると言っても過言ではない。

 さて、このクリスマスマーケットであるが、一体どんなものがあるのだろう。結論から言うとあらゆるものがある。これからこのドイツのクリスマスマーケットの魅力を紹介していこうと思う (続く)。

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