二十五話:『えっ? バウムクーヘンってドイツのクリスマス限定スイーツなの? (クリスマスの特別なお菓子編)』

ドイツのクリスマスに対する情熱は飾り付けに留まらない。ドイツには世界に類を見ないほどアドベント独自の文化を発展させていった。いわゆる”季節物”である。一言で季節ものと言っても、それは食べ物だったり、アドベント・クランツだったり、もしくはアクセサリーだったりと多岐に渡る。つまりあらゆる分野でクリスマス限定品が生み出されたのである。

 まずは日本に馴染みの深いもの、ドイツのクリスマス限定のスイーツから紹介していこう。まずバウムクーヘンというドイツのケーキがある。知っての通りバウムクーヘンは幾層にも生地を重ねて年輪に見立てた文字通り”木のケーキ”であるが、日本では一般的なこのケーキは一部の専門店がある地域を除き、ドイツではクリスマスのシーズンにしか食べることが出来ない。あまり多くの日本人が知らないことだが、このバウムクーヘンはドイツの典型的なクリスマスの季節菓子なのである。

 これには意外だと思う日本人も多いかもしれないが、ドイツで日常生活をしていてこのバウムクーヘンに出会うことはまずありえない。それくらいレアなアドベント・スイーツなのである。大きなクリスマスマーケットならば大抵一つはこのバウムクーヘン専門店が出店しているので、そこで食べるのが一般的である。ちなみに普通のケーキ屋さんに行ってもまず手に入らない。なので多くのドイツ人は日本のバウムクーヘンの身近さに驚かされるそうな。

 次にクリスマスを代表するスイーツといえばシュトレンがその筆頭にあげらる。シュトレンとは主に乾燥させたドライフルーツ(レーズンがメインの場合が多い)を練り込んだいわゆる菓子パンである。表面にはふんだんに砂糖がまぶしてあり、フルーツの風味と場合によってはバター、そして砂糖の甘さが絶妙に交じり合って美味しいパンである。

 ドイツでは第一アドベントがスタートしたら、真っ先にクリスマスマーケットに行ってこのシュトレンを買う。場所によってはクリスマスマーケットの初日に限りこのシュトレンを無料で配っているところもある。そしてこのシュトレンを毎日少しづつ、クリスマスの当日までちょっとずつスライスして食べるのである。アドベントカレンダーといい、蝋燭といい、ドイツではこうしたアドベントのカウントダウンを楽しむ風潮が強い。クリスマス当日よりもこのアドベントこそがクリスマスの本当の楽しみ方だと断言する人がいるくらい、ドイツ人はこのアドベント(クリスマスまでの約一ヶ月間)を大事にする。このシュトレン、味はとても美味しく、少し苦目の紅茶があればいくらでも食べてしまいたくなる味である。しかし気をつけねばならない。このシュトレン、美味しさの秘密はカロリーと言われるくらい高カロリー食品であり、毎日食べるにはとても危険な菓子であったりする。自制心が問われる菓子パンである。

 ちなみに日本でも以前有楽町周辺でドイツのクリスマスマーケットが開かれてシュトレンが売られていたりするので、馴染みのある人も増えてきているだろう。機会があるならば是非ドイツのシュトレン発祥の地――ドレスデンに赴き本場のシュトレンを味わってみてはどうだろうか。ドイツの京都、百塔の街と言われる美しいドレスデンのクリスマスマーケットは必ずや貴方の心に美しい記憶を刻むことうけ合いである。

 さて、どこぞの旅行会社の回し者のようなことを述べたが、このシュトレン、ドレスデンが発祥の地とされ、今ではドイツ全土で見られるクリスマススイーツである。その味も千差万別、ドライフルーツを練り込んだ正統派シュトレンから、筆者一番のお気に入りであるバター入りシュトレン(カロリー注意)、変わり種としてはクワークが練り込んだものもある。同じシュトレンでも作る場所によって味が大きく異なり、同じドイツでもそれぞれのクリスマスマーケットごとに売っているシュトレンの味が異なったりするので食べ歩くのも面白い。ただし繰り返しになるがくれぐれもカロリー注意である。

 このバウムクーヘンとシュトレンが日本でも有名なドイツのクリスマススイーツであるが、ドイツではこれらよりも遥かに身近なクリスマススイーツが存在する。その名はレープ(もしくはレーブ)クーヘン。これははちみつと香辛料(アニスやシナモンが多い)、オレンジピールを練り込んだ独特の香りがする小さな手のひらサイズのケーキである。最大の特徴はその触感とアニスやシナモン独特の香りにある。まず生地が少し苦く、蜂蜜で甘く、各種シナモンがスパイシーさを醸し出し、舌と鼻をまんべんなく刺激するなんとも形容しがたい味なのである。その食感はふっくらとしていながらもモッチリしており、一見相反する二つの要素が実に高度なレベルでまとまったスイーツである。

 このレープクーヘン、実はドイツの法律でビールと同じく使用原料が厳密に定められていたりする。驚くべきは、使用原料が法律で規定されていながらもチョコレート風味であったり、ビターオレンジ風味であったりと、実にその味のバリエーションの振れ幅が大きいのも特徴である。サイズに関しては一口サイズからドーナッツサイズのものまであり、どれか一つを手にして『これこそが代表的なレープクーヘンだ!』とは言えないくらい多様である。

 もしアドベント期間にドイツに行くことがあったら是非地元のスーパーに立ち寄って欲しい。所狭しとこのレープクーヘンが積み上げられているはずである。では一体どれを食べればいいのか。個人的におすすめの一品はチョコレートを使わず、表面に白い砂糖がコーティングされているタイプである。チョコレートがかかっているものはオレンジピールの風味が強いタイプであり、ややもすればベルギーチョコレートのような味わいである。白いレープクーヘンはシナモン、アニス、コリアンダーなどの香辛料の風味が強く、どちらかと言えばオーソドックスなタイプに属するレープクーヘンである。

 レープクーヘンの醍醐味はその絶妙な食感と、舌と鼻で味わう芳醇な香りのパレードである。次から次へと新しい香りが頭を揺さぶっていく。語彙力がないのが悔やまれるが何が言いたいかというと、とにかくすごく美味しいのである(もちろんアニスが嫌いな人にはダントツでアウトな味であることは言うまでもない)。ドイツのクリスマススイーツと聞かれれば絶対にこれをオススメするくらいお気に入りの一品である。もちろんブランドによって味がぜんぜん違うので、いくつか買って食べ比べてみるのも面白い。シュトレンに比べればカロリーは低めなのも嬉しい限りである。

 ちなみにこのレープクーヘン、自作用の香辛料と生地の粉のミックスが売られており、簡単に自分の家でレープクーヘンを作ることができたりする。これもクリスマスシーズンになると普通にスーパーで売っているので、ちょっと洒落たおみやげとしても重宝するということをお伝えしておきたい (もう少し続きます)。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る