怪異(九)

「こ、皇后……」

 劉協の声は恐怖でかすれていた。

「そ、それは……」

「瓜でございます」

「瓜ではない! それはどう考えても人間の首ではないか! しかも、まだ生きている!」

「左様でございますか」

 伏皇后は白々しい口調で言った。

「皇后。それは朕を警護している兵士だ」

「はて」

 伏皇后は首をかしげた。

「警備の兵士とは誰を指しているのでございましょうか? 陛下の部屋に侵入を許し、宝玉のすり替えを許すような間抜けのことでございましょうか?」

 鍬が振り下ろされた。

 みしっ、と鈍い音がした。

「ひいっ……」

 惨劇がはじまった。

「この瓜は固い」

 鍬を振り上げる。

「なかなか割れませぬ」

 さらに一撃。

 警備の兵士は、まだ死んでいない。

 もう一つの首はすっかり恐怖に怯えている。

 眼前の光景は、もうすぐ己に訪れる運命なのだから……。

 三度、四度。

 伏皇后に止める気配はない。

 兵士が死んでも止めない。

「お願いだから止めてくれ!」

 劉協は前に出た。

 だが、取り巻きの者たちが劉協を押しとどめた。

「下がれ! 朕は漢の皇帝であるぞ!」

 しかし、取り巻きの者たちは下がらない。

 面でもかぶったかのように、顔色を変えない。

「おかしなことでございますな」

 伏皇后は冷たく言い放った。

「こやつらは陛下の部屋への侵入を許したのだから死んで当然」

 また、鍬が振り下ろされる。

 もはや人間の首とは呼べない代物になりつつあった。

 曹憲も、曹華も、あまりの血腥い光景に言葉を失っている。

 侍女などはほとんど気を失っているものもいる。

「曹節には感謝してもらわぬと。わざわざ畑に肥やしをやっているのだから」

 伏皇后は鍬を振り下ろすのを止めた。

 もう一つの首を見た。

「ひいっ!」

 伏皇后はゆっくりと近づくと、ふたたび鍬を振り下ろした。

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