怪異(五)
「どういうことでしょう……」
劉協から話を聞いた曹節は、さっぱりわからないといった様子だった。
曹節はすり替えられた二つの宝玉を手に取った。
それぞれ緑と紫。
紫の宝玉は息が詰まるほどに美しい。
「わからぬ。盗んだとしたら、なぜ代わりの宝玉を入れたのか……」
劉協は腕を組み、眉間に皺を寄せて思案している。
困ったことがあると、曹節に相談するようになっていた。
曹操の娘なのは百も承知である。
しかし、いまの劉協が心を許せる人間は曹節しかいないのだ。
「孟嘗君の食客が陛下に悪戯でにしたのでしょうか……」
曹節は鶏鳴狗盗の故事を口にした。
「べつに盗まれたのは白狐の腋毛の毛皮ではない。それに盗んだというのなら、なぜに代わりの宝玉を入れておくのだ?」
「盗んだのを悟られないようにでしょうか……」
「ならばなぜ一目で別物とわかる宝玉を入れる?それにその宝玉、偽物とは思えぬ」
「警備の兵士は、誰も入らなかったと言っているそうですが」
「では、なぜ宝玉が変わっているのだ?」
「どうしてでしょう……。ですが、警備の兵士たちの仕業ではありません」
「なぜ、そう言い切れる?」
「彼らにこのような素晴らしい宝玉は用意できません」
「それはたしかに……」
「陛下」
「くれぐれも兵士たちは罰しないでくださいませ」
「ああ……」
劉協はうなずいた。そして、曹節の顔を見た。
「そなたは乱世の姦雄の娘らしからぬことを言う。優しいな」
「いえ、そんな……」
「しかし、そうなると誰がこのような悪戯をしたのか」
「それは本当にわかりませぬ」
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