怪異(一)

 曹節はいつものように本を読んでいた。

 『春秋』の『左氏伝』であった。

 なんということもなく読んでいたが、誰かがやってくる気配を感じた。

 劉協に違いなかった。

 曹節はあわてて『左氏伝』を隠した。

 劉協が部屋に入ってきた。曹節の姿をみると訝しげな顔をした。

「どうした? いつものように本を読まぬのか」

「何もせずに無為に時を潰すこともございますわ」

「そうか」

 劉協はそれ以上問わなかった。

「畑仕事は精が出るか」

「はい」

 曹節はにっこり笑った。

「お陰ですっかり日に焼けて農婦のようになってしまいましたわ」

「うむ」

 どうも劉協は様子が落ち着かない様子である。

 そわそわしていた。

 よく見ると後ろになにか隠し持っているようである。

「そなた、宝玉のたぐいに興味はないか?」

「いや、別に」

 じつに素っ気ない態度だった。

 劉協はすっかり拍子抜けしてしまった。

 だが、曹節は、劉協の様子がいつもと違うのに気づいた。

「宝玉がどうかなさいましたか」

「じつは素晴らしい宝玉を手に入れたのだ」

「買ったのですか?」

「いや、献上品だ」

「誰からでしょうか?」

 劉協は一瞬、黙った。

「父からですね」

 すぐさま曹節が言った。

「う、うむ……」

「何か持っているご様子ですが」

「これが、お主の父からもらった宝玉だ」

 そう言うと、劉協は箱の中身を見せた。

 箱の中には美しい宝玉が三つ。なかでも青い宝玉はとりわけ美しい輝きを放っている。

「これを父がくれたのですか?」

「そうだ」

 曹節は細い眉をひそめた。

「これはおそらく、父が陛下を試しているのだと思います」

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