三つの宝玉(一)
漢の皇帝、劉協に拝謁したい人物がいるという。
劉協は断ることができなかった。
曹操からの使者だから、である。
(早くも、あの男の耳に入ったのか……)
劉協は陰鬱な気持ちになった。
洩らしたのは、王異か、辛憲英か?
いや、おそらくは清河長公主であろう。
だが、そんなことはどうでもいいことだ。
(それにいつの日かはわかってしまうことなのだ……)
劉協は漢の皇帝である。しかし、いまは傀儡同然の身である。
皇帝の血を引いているということに価値がある。
現在、皇帝としての劉協の価値は血統そのものにある。
姉妹に子を産ませるために存在しているといって過言ではない。
(家畜の豚のようだ)
劉協が期待されているのはそういうことなのだ。
「使者は誰だ?」
劉協が問うと、
「王粲でございます」
「ああ」
そういえば、三姉妹の輿入れの話を持ってきたのも王粲であった。
「魏公から陛下への贈り物を預かっているとのことで」
「朕に? どのようなものだ?」
「それは陛下に直接お見せしたいとのことで」
劉協は王粲に会った。
「朕に贈り物があるそうだな」
めずらしく、先に話を切り出したのは劉協からであった。
「魏公が宝玉を差し上げたいと」
王粲は小走りで進み出て、包みを侍従に渡した。
劉協は受け取って、包みの中を見た。
箱であった。開けると宝玉が三つ。
しかし……。
「一つだけたいそう立派だな」
「はい。その大海のごとく深い青色の宝玉は秦の始皇帝が巡遊のさいに手に入れたという曰くつきのものでございます」
「見事なものだ。他の二つの黄色と真紅の宝玉も素晴らしいが、この青い宝玉ほど見事なものはお目にかかったことがない」
「陛下に喜んでいただいて大変光栄でございます」
王粲は退出した。
劉協は青い宝玉を手にとって眺めている。それにしても妖しいまでの輝きをはなつ宝玉で、時が経つのも忘れてしまうほどである。
(なんという美しさだ……)
魂を奪われそうなほどである。
「しかし、よく曹操がこれほどの宝玉を朕に渡そうなどと思ったものだ」
それが不思議でならなかった。
ひょっとして偽物か……。
劉協の心に疑念が沸いたが、それはないと思った。
傀儡の皇帝にわざわざ偽物など送る意味がない。
(どういう風の吹き回しなのか……)
あれこれ考えていると、
「陛下? 何を見ておいでなのですか?」
曹華がやってきた。
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