三つの宝玉(二)
曹華はいつもの通り、芸伎の服装であった。
姉の曹憲は服装を改めるように事あるごとに口酸っぱく言っているが、曹華はどこ吹く風といった様子である。
そんな曹華は、姉の曹憲や曹節とともに貴人の位についたばかりである。
貴人といえば皇后に次ぐ地位である。
それが芸伎の格好をして宮中を練り歩いているのだ。
恥を知れ、と世人は言うかもしれないが、曹華はまだ十五なのだから宮中の堅苦しい空気に染まれというのは酷なのかもしれない。
劉協も、そんな曹華をついつい甘やかしてしまう。
「まあ、綺麗な宝玉ですわ」
曹華は、弾んだ声で言った。
「じっと見つめていると魂が吸い取られてしまいそうですわ。その素晴らしい宝玉はどうやって手に入れたのですか?」
「お前の父上がくれたものだ」
劉協は憮然とした顔をして答えた。
「お父さまが?」
曹華は不思議そうな顔をした。
「お父さま、そんなに陛下と仲がよかったかしら?」
若いということは遠慮を知らない。
曹操と宮中の関係が大変微妙なときなのである。
一つの発言がどんな事態を引き起こすのかわからないのである。
だが、お侠な性格の曹華はそんな政治のことなどどこ吹く風といった態である。
「もらった宝玉は一つだけではないのだ。ほら、ここにもあと二つ」
劉協は箱のなかの宝玉も見せた。
「まあ、こちらの宝玉も綺麗ですわ」
「そうか」
「でも、貰うとするならば青い宝玉がいいですわ」
曹華は、機敏そうな瞳で訴えかけるように劉協を見た。
「陛下はこの宝玉を誰かに差し上げるつもりなのですか?」
「決めておらぬ。そもそも貰ったばかりなのだ」
「では、その宝玉を私にくださいませ」
「何だと?」
「三つが無理と言うのなら、せめてその青い宝玉だけでもくださいませ」
「それについては少し考えさせてくれ」
「まあ、陛下ったら漢の皇帝なのに意外とケチですわ」
漢の皇帝に対しての口ぶりとは思えないような口の利き方であった。
「その宝玉、私にくださいませ。絶対にですよ」
部屋を出るときに曹華は振り返って、念を押すように言った。
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