第三章

父の思惑

 噂をすれば曹操が、と人は言う。

 その曹操が宮廷にやってきた。

 護衛は夏侯惇である。

「元譲。わしの娘たちは醜いか?」

 いきなり訊ねられたものだから、夏侯惇もたじろいだ。

「い、いや……。三人ともたいへん美しいお方で」

「嘘はいかん。わしは正直なのが好きだ」

「拙者、嘘などは……」

「一番上の娘も、か?」

「も、もちろん……」

「嘘をつけ。あれが美人でないのは親が一番よく承知している」

 曹操は深い溜め息をついた。

「あれがもう少し美しかったら、きっと素直な娘に育っただろう」

「は……」

「陛下は我が娘がお気に召さぬのか」

「そのような事は決して……。特に漢豊さまは一緒に畑仕事をするほどの間柄で」

「元譲」

「はい」

「わしの三人の娘は先日貴人になった。貴人といえば皇后に次ぐ位だ」

「はい」

「娘たちの方から陛下を遠ざけているということはない。それは先日聞いた」

「はい……」

「陛下が曹操の娘を抱かない。これはすでにあちこちで噂になっている」

「……は」

「噂というのは羽をつけて飛ぶものだ。ひょっとすると、蜀まで飛び交うかもしれぬ。あの劉備が耳にするかもしれぬ」

「そうかもしれませぬ」

「男と女の問題ではもはや済まされぬのだ」

「はい」

「これは国家の問題だ」

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