女の文学論(十三)

 場を見回すと、あまりこの会話を快く思っていない人物が劉協のほかにもう一人いた。

 辛憲英だった。

 すこし肩が震えていた。

「大丈夫ですか?」

 劉協が声をかけた。

「ええ……。あまり大丈夫ではありませんけど」

「辛さん、具合でも悪いの?」

 ここにいる全員が辛憲英を見た。

「これから話すことは誰にも話さないと約束してくれますか?」

「どうしたの? 急に……」

「そのう、口にするのも恥ずかしいことだから……」

 辛憲英のちらりと視線を劉協に向けた。

「私は席を外しますよ」

「いいえ。男の貴方にも聞いておきたいことですから……。それに貴方から漏れることはないだろうし……。貴方は書生とはいえ品性が卑しくないでしょうから」

 そう言うと辛憲英は重々しく口をひらいた。

「そのう……。男の人ってみんなあの事が好きなんですか?」

 劉協をはじめ、みな開いた口が塞がらなかった。

「辛さん。あなた、人妻なのよね?」

「そうだけど……王さん平気なの!? ああいう事?」

 よほど恥ずかしいのか、辛憲英の顔は耳の付け根まで真っ赤になっている。

「白状するけど、私、あの事が大嫌いなの! 一生しなければいいのにって思っているの!」

 ほとんど辛憲英は叫んでいた。

 その瞳は恥ずかしさのために潤んでいた。

 王異と辛憲英。どちらも賢婦人ではあるが、中身はまったく違う。

 砂塵の舞う涼州で生き抜いた王異と、最先端の文化をほこる都で生きてきた辛憲英。

 洗練された辛憲英にしてみれば、王異のような女性は無骨にみえて仕方ないのかもしれない。

「あなた、ひょっとして夜は夫を遠ざけているの?」

 呆れたように王異が訊ねる。

「できればそうしたいわよ!! 他の家庭では知らないけど……夫は普段は優しくていい人なんだけど夜な夜な私を求めてきて……。夜の夫はまったくの別人で……。それはもう数え切れないくらいに……」

「数えるほどしかなかったら、かえって夫婦の仲を疑うわよ」

 と、王異は投げやりな口調で言う。

「辛憲英さんはどうだったんですか?」

 曹華は辛憲英の顔色を窺いながら訊ねた。

「それが……覚えてないの」

「え?」

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