女の文学論(十二)

「そんな。絵で見たのとは全然違うわ……」

「それはもう大変ですわよ」

 囁くように王異が言う。

「号泣してしまいましたから」

「まさか……」

「本当ですよ。生涯であんなに痛い思いをしたことはありませんわ。天井をみながら絶叫して……。大丈夫ですか、話を止めましょうか?」

「え? あ、ああ……」

 王異が問いかけるも、曹華の返事は曖昧になってしまう。 

「一献いかがですか?」

 すっかり動揺している曹華をみた王異が、酒をすすめた。

 酒が注がれる。

 劉協は王異の顔を見た。

 小生意気な生娘が怖がっているのが面白くって仕方ないと、顔に書いてあった。

(涼州の賢婦人はなかなかの性格でいらっしゃる……)

 王異は見たところ若くはない。

 年齢は三十代、蔡文姫と同じかもう少し若いかといったところ。

 しかも生死の修羅場を何度もくぐり抜けている。

 蝶よ花よと育てられてきたお姫さまが太刀打ちできるような相手ではないのである。

「ささ、お飲みになってくださいませ」

 曹華は言われるままに酒を飲み干した。

「まあ。素晴らしい飲みっぷりですわ」

「王異さん。その、そんなに痛いんですか?」

「でも、女ならば誰でも通らなければならない道ですもの」

「そ、そう……。誰でも……」

「そう。女なら誰でも。でも、愛があればそんなこと些細なことに過ぎませんわ」

「愛……」

「ええ。愛ですわ。たしかに初めての夜は痛くて仕方なかったですし、次の日の朝もずっと胸がむかむかしていましたわ。でも、愛する人とやっと結ばれたんだと幸せな気持ちでいっぱいでしたわ」

 しかし、劉協は苦虫を噛み潰したような顔をしていた。

(これは、男がいるべき場ではない)

 高尚な文学を語りあうはずが、いつからこのような妖しげな雰囲気になったのだろうか。

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