【第四章】百夜白夜の不覚
偽りなき死
翌朝の午前八時を少し過ぎた頃。
嵐は昨晩の内に収まり、眩しい朝日が島を照らしている。
本来の予定では、リビングで朝食が摂られているはずなのだが、ある予想外の事件が起きたことで、僕は二階にある氏の自室の前にいる。
ベランダへ通じる硝子戸の外から、数人の男性の声が届いて来た。おそらく知らせを受けてやって来た広島県警の刑事ら捜査陣の面々だろう。
なぜミステリィツアー中に、本物の刑事らまでがやって来ることになったのか。
それは百夜が、企画上だけではなく、本当に死んでしまった可能性が高いとされているからだ。
事の起こりは、まだ陽が昇ってもいない午前六時頃にまで遡る。僕はその時、邸外から響いてきた叫び声ではっと目を覚まさせられた。
他の招待客達も同様だったようで、それぞれにまだ眠そうな顔を突き合わせながら、とりあえず何事が起きたのかを知ろうと邸を出てみると、邸の傍の断崖の縁で、意識を失って倒れている妻鳥を発見することになった。
その傍には如雨露が転げていて、水やりの最中にそうなったらしいが、目立った外傷はなく、ならばなぜ――となったが、その理由は、近くの崖下を覗いてみて判明した。
二階の百夜の自室にあるベランダの真下にあたる断崖の中腹に、周囲より少し岩肌が突き出ている部分があるのだが、そこに百夜の白い仮面が、半分に割れた状態で赤黒い血をこびりつかせながら落ちているのが発見されたからだ。
その後『探偵ガジェット第三号』の《小さな埃も見逃さない》(誤解のないよう繰り返すが、双眼鏡である)でしっかりと確認したので間違いない。妻鳥はおそらくその血を見て昏倒してしまったんだろう。
倒れた振りをしているわけでもなく、割れた仮面の赤黒い血も本物のようにしか思えなかったため、まさか、本当に殺人事件が……? そう危ぶまれ、謎解きなどと言っている場合ではないと、すぐに本土の広島県警へ通報される事になったという経緯なのである。
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