第4話

 職場について、どうすれば、あの美しい「動物の現場」を彼に伝えられるだろうかと考えてしばらく、タイマーが紅茶の蒸し時間の終わりを知らせた。周りの同僚に急かされるように切り替えて、巴子は業務に没頭する。

 彼が自分にそうであるように、彼とのことは至って慎重になるべきだ。捉えた世界を伝えることができて例え、共有をすることができないとしても。


 時間を経て、昼休みになった。追い出されるような愛煙家の流れにのって、巴子は外気へと身を晒す。少し違和感のある匂いに、しかし母のキスを思い出してゆっくりと頭に手をやった。夏が近づいたからか、煙がたゆたう程に風がないと既に少し暑い。

 降ろす手で軽く顔を仰ぐと、巴子はやおら彼女へと電話を繋げた。

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若榴 棚見 @_hakobe

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