二百七十一 予定通り
残り四つの地下都市の再起動は、番号順にやる事にした。北と南を行ったり来たりするけれど、支援型達に都市の地上入り口すぐ近くまで送ってもらうので、苦労はない。
昨日、一人で回ると言った後のフローネルは大変だった。自分も付いていくと言って聞かず、ごねにごねたのだ。
いくら安全度が高いとはいえ、何があるかわからない場所に妊婦を連れて行く訳にはいかない。最後にはレモとの通信を繋いで、説得してもらった。
そして、現在ティザーベルの隣には、フローネル同様ごねた人物が立っている。
「随分吹雪いてるんだな」
「ソーデスネ」
ヤードだ。彼はフローネルを宥めた後、自分も行くと宣言し、以降意見を曲げなかった。
このヤードの行動にフローネルがまたしても同行を言い出すかと思ったが、彼女は何も言わなかった。それどころか、何やら一人で納得して、勝手にティザーベルの事をヤードに託したのだ。
何やらもやっとする感情があるけれど、それを言語化出来ない己が憎い。
そうして二人に押し切られる形で、今朝五番都市から送り出された。到着した先は、四番都市の地上入り口付近。
北極圏にある小さな島の上であるここは、到着した時から吹雪いていた。結界で丸ごと覆っているので、寒さはないけれど。
「周囲見てるだけで寒い」
ぼやきつつ、都市への入り口を探す。おそらく、この雪の下に埋もれているのだろう。下手したら氷の下かもしれない。
魔力の糸で探ると、やはり今いる地点からかなり下に入り口が見つかった。四番都市でこれなのだから、残り三つも同様ではなかろうか。
「とりあえず、入り口が見つかった。もうちょっと先の、足下の氷の下」
「それ、どうやって入るんだ?」
「いっそ、氷溶かす?」
『大丈夫よー。とりあえず、真上まで行ってくれる? こっちで予備機能操作して、直接都市まで行けるようにするから』
どうやら、パスティカが導いてくれるらしい。
降り立った都市は、これまでのものとあまり変わらない。とはいえ、今回は一日で四つの再起動を考えているのだから、効率よくいかなくては。
まずは魔力の糸で、都市内部に仕掛けられた罠を全て洗い出す。次に、罠の書き換えや、爆発系以外の罠をあらかじめ発動させて解除させていく。それらを魔力の糸でのみ行い、都市の入り口にいるだけで全ての罠を安全に解除する事に成功した。
「最初から、この手を使っておけば……」
後悔とは、後で悔いるから後悔なのだ。そんな言葉が頭をよぎる。
下準備をしたからか、これまでにないスムーズさで支援型の元まで辿り着いた。これには、パスティカの誘導も一役買っている。
四番都市の支援型、名はラエル。彼女の目覚めも、これまでの支援型同様美しい光景だった。
「お久しぶりねー、ラエル姉様」
いきなり姿を現したパスティカが、軽く挨拶する。目覚めたばかりだが、ラエルはにっこりと笑って答えた。
「まあ、パスティカ。わたくしよりも先に目覚めていたの? あなた、わたくしの妹だという自覚はあって?」
何やら、雲行きが怪しい。だが、パスティカも負けていなかった。
「いやだわ、ラエル姉様。そんなささいな事にこだわっているなんて。ティーサ姉様が聞いたら、悲しむと思うわあ」
「ティーサ姉様!? 姉様も目覚めていらっしゃるの!? 早く教えなさい!」
先程までの余裕のある態度はどこへやら、ラエルはパスティカに掴みかからんばかりの様子だ。それをひょいと躱すと、パスティカはティザーベルの背後に隠れる。
「私の次に目覚めたのが、ティーサ姉様よ。今は二番都市にいらっしゃるわ」
「二番……イネスネル姉様のところね……ティーサ姉様は、昔からイネスネル姉様に甘いのだから」
なおもブツブツと呟くラエルに、パスティカが呆れた目を向けた。
「ちょっとラエル姉様? そんな事よりも先に挨拶しなくちゃいけない人がいるの、忘れてない?」
「ティーサ姉様の事をそんな事呼ばわりするなんて、聞き逃せなくてよ。ああ、でも、確かに挨拶は大事です。改めまして、ごきげんよう、新しい主様。私は四番都市の支援型、ラエルと申します。末永く、よろしくお願いいたします」
目の前の空中で綺麗な礼を執るラエルは、ラベンダー色の髪とドレスが美しい。
「よ、よろしくね」
支援型は個性が強いが、このラエルもなかなかだ。今日はこの後もう三体、目覚めさせなくてはならない。耐えられるのだろうか。
支援型を目覚めさせれば、都市の再起動は半分終わったも同然だ。しかも今回は最初に罠を無力化している。動力炉までは、大分楽な道のりだ。
今回は聖都でもやったように、結界を浮遊させて移動する方法をとった。走るよりも速いし、何より楽でいい。
「早く着いたな」
ヤードのもっともな感想は置いておいて、動力炉の部屋に入る。とっとと再起動させないと、今日という日が終わってしまう。
「何も今日一日で終わらせる事に、こだわらなくてもいいのに」
「いーや! 今日で終わらせる! そうでないと、ずるずる長引く」
短期間でやらないと、きっと嫌になるから。ここはきつくても、最初のスケジュール通りに行きたい。
無事四番都市を再起動させ、次の六番都市へと向かう。動力炉からそのままの移動に、ラエルが驚いた。
「こ、ここから直接六番都市まで!?」
「入り口までだけどね。パスティカ、場所は大丈夫?」
「任せて」
その言葉のあと、周囲の景色が一瞬で変わる。六番街は南極圏だが、こちらもまた吹雪いていた。
「結界、消せないわ……」
心なしか、北よりも風が強いように見える。吹き付ける雪で、周囲は真っ白で何も見えない。
「入り口付近では、あるんだよな?」
「その、はず」
ここでも魔力の糸を使い、入り口を探す。これだけ吹雪いているのなら、四番都市同様雪の下だろう。
「見つけた。氷の下」
「またか……」
ヤードのうんざりした声に、ティザーベルも同意する。四番六番と続けてこれなら、残る八番九番も同様だろう。
ここに来て、結界を自動で張る道具を作っておいて良かったと、心の底から思うのだった。
無事に残り三つの地下都市も再起動を完了させた。一番時間がかかったのが、都市内での移動だったというのだから笑えない。
「でも! 何とか予定通り一日で終わったー!」
無事五番都市に帰ってきて、まずはそれを叫ぶ。中央塔の移動用の小部屋でそれをやったものだから、隣にいたヤードに笑われた。
「……何? 何か文句でも?」
「いや。予定通り終わって良かったな」
そう笑顔で言われては、何を返していいのかわからない。たまにこういう心臓に悪い事をするから困る。
「と、とにかく、ネルに帰ってきたって報せに行こう」
「そうだな」
中央塔から、フローネルがいる宿泊施設までは、車で移動する。全て自動で動くので、楽な事このうえない。
「ダメ人間になりそう……」
「? 何か言ったか?」
「何でもない」
少し、意識して運動するようにしなければ。今度、フローネルも誘って散歩コースを歩こう。妊婦にも、運動は必要なはずだ。
宿泊施設に到着すると、意外な人物が出迎えてくれた。
「お帰りー!」
「セロア! 仕事終わったの?」
「まさかー」
それは、満面の笑顔で言う事なのだろうか。
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