二百十七 頼み事
テパレナ達が地下都市に残る件に関しては保留にし、さっさと課題を終わらせる事にする。
「という訳で、知恵を貸して、マレジア」
一番都市の中央塔最上階で、画像付きの通信をマレジアとしてる最中だった。画像のマレジアは、渋い表情をしている。
『何が「という訳」なのか、じっくり説明してもらおうか』
「いや、説明も何も……」
テパレナ達の事は、先にざっくりと説明していた。エルフが虐待されている事は、マレジアも知っている事なので話が早いが、彼女もまさかエルフ達が地下都市に残る事を望むとは思わなかったのだろう。
『エルフが都市にとはねえ……どうにも先入観で、エルフは森に住むものだと思い込んでいたよ』
「ああ、ね……」
これも前世の記憶の弊害と言うべきか。エルフは自然が多い場所を好み、人工物だらけの街での暮らしを嫌う、というイメージが出来上がっている。
現実では、亜人として迫害される対象になってしまっているので、人目につかない場所として森の奥や山奥に里を作る事になってしまったが。
「獣人も何人か保護しているから、彼女達専用の里を用意した方がいいのかな……」
『ウェソンかい?』
「ガソカト。これまた見事に女性だけだよ」
『そうかい……一つ確認なんだが、一度聖都には行ったよね?』
「行ったよ。てか、それはマレジアも知ってるじゃない」
『ああ、聞きたいのはそれじゃない。聖都で、サフーとヨファザスの屋敷は、見たかい?』
「サフーとヨファザス……ああ、あの狸と狐。いや、大聖堂で会っただけだね。狐の方とは、スンザーナと引き合わされたからもう少し関わったけど」
『ぶっちゃけると、サフーはそっちの気があってね。おそらく、捕まえられたエルフとガソカトの男達は、あいつのところに送られていると思う』
「え……」
マレジアの言葉に、ティザーベルは聖都で見たサフーを思い出す。でっぷりと突き出た腹の、いかにも悪徳聖職者ですと言わんばかりの外見だった。
あの男が……脳が想像を拒否している。
『出来たら聖都のあいつの屋敷と、ヨファザスの方も探ってほしいんだけれど』
「さすがにそれは無理じゃない?」
教皇のお膝元はそれなりに警備の目が厳しい。それをかいくぐって主教だの枢機卿だのの屋敷を探るのは、自殺行為だ。
魔法が使えれば何とかなるかもしれないけれど、聖都は二番都市の上に建っていて、教皇はその二番都市の能力を使用できる状態にある。
結果、聖都は物理面でも魔法面でも堅固な場所と言えた。
『その辺りに関しちゃ、裏の手がない事もない』
「……どういう事?」
『あんた、あたしが誰か忘れたのかい?』
そういえば、マレジアは六千年前、研究実験都市が凍結された事件の生き残りだ。つまり、過去の技術を扱える最後の技術者でもある。
「え……でも、寄る年波には――」
『何か言ったかい?』
「ナンデモアリマセン」
女性に年齢の事を口にするのは禁句だ。それに、マレジアの頭はしっかりしていそうだし、老いを感じさせない。
さすがに外見はそうはいかないけれど。
『二番都市は確かに魔法化製品を作るのに長けた連中が多かったけど、別に他の都市で一切作っていなかったって訳でもないからね。それに、開発は人間がやっていたんだ。いくら支援型とはいえ、新しい製品を生み出す力はないよ』
確かに、支援型だけならそうかもしれない。だが、その支援型を使っている人間がいれば、その者が改良しても不思議はないと思うのだけれど。
だが、マレジアには鼻で笑われた。
『そこらの一般人と、第一線の技術者を一緒にするんじゃないよ。スミスは確かに地球の知識を持っちゃいるが、あいつは元々がただの一般人。技術屋でもなんでもないんだ。たかが素人に負けるとは思わないね』
強気なマレジアの言葉を聞いていると、本当にそう思えてくるから不思議だ。
フローネルは、メルービット王国の次に向かう国を早々に決めた。グサンナード王国の西に位置するハーバーム王国だ。
「ここもグサンナード、メルービット同様亜人迫害をしている国だ。無論、亜人市もある。グサンナードと比べると小さいそうだが、十分潰し甲斐があるというものだ」
暗い笑みを浮かべて笑うフローネルに、かける言葉が見つからない。メルービットで救出したエルフのうち、テパレナ達と同じ里のエルフが何人か見つかったそうだ。
また地下都市に残りたがるエルフが増えるのかと身構えたが、どうやら彼女達はテパレナとは違う考えらしく、新しい里への移動を受け入れたという。
「やはり、地下に街があるという事が受け入れがたいようなのだ。日の光がないところにはいたくない、と」
真っ当な考え方だと思う。ただ、地下都市には特殊な方法で地上の日光を取り入れる仕組みがある為、日の光がないというのは間違いだが。
「仕掛けは終わったので、これから行ってくる」
「気をつけてね。おじさんも」
「おう」
すっかりレモとフローネルの二人で行動する事が増えている。エルフ救出にはどうしてもフローネルは欠かせないし、彼女一人で行動させるのも心配だ。万事そつがないレモが同行してくれるのは、正直ありがたかった。
彼等二人を見送った後、再びマレジアと連絡を取る。
「それで? 聖地でも敵に気取られないように出来る道具はいつ頃出来そう?」
『出来るってえか、作るのはあたしじゃないよ。設計まではするけどね。あとは都市で作っておくれ』
「そうなの?」
『いくらなんでも、この隠れ里にゃあ地下都市並の施設はないんだよ』
言われてみればそうだ。制作に関しては、どの都市でも出来るとの事なので、後でティーサにでも頼んでおこう。
『それと、老婆心だが忠告だよ。聖都には一人で行かない方がいい』
「それは、危険だからという事?」
『それもあるが……本来なら、若いあんたには見せたくない世界だからだよ』
どういう事だろう。サフーに「そっちの気がある」などといいながら、見せたくない世界とは。
『あと、余力があったらその場で捕まえられている連中を助け出してやってほしいんだ。後の事はフォーバルがうまくやるはずだよ』
「フォーバル司祭? あの人、亜人関連にも首突っ込んでるの?」
『反教皇派だからね』
つまり、亜人迫害は親教皇派という事らしい。フォーバル司祭も忙しい事だ。
『設計図の方は、この通信で一緒に送っておくよ』
「ありがとう。出来次第、聖都に向かうよ。といっても、移動ですぐだけどね」
『気をつけな』
「了解」
マレジアの言葉が少し気になるけれど、聖都に男性エルフが固まって捕まっているのなら、救出するのは当然だ。
バーハーム王国からフローネルが戻るのは、三日後の予定だ。彼女と行けば、相手のエルフにも信用してもらえるだろうし、一人ではないのだから一石二鳥だろう。
バーハームで救出出来たエルフは少なかったが、その分ガソカトの獣人が多かった。
「結構な人数だねえ」
「メルービットやグサンナードよりも、獣人の比率が高かったんだ」
フローネルの顔には、さすがに疲労の色が見える。グサンナードからこっち、あちらこちらを行ったり来たりして少しも休めていない。
「次は――」
「その前に! ネルは三日程一番都市で休む事」
「え?」
「鏡見た? 酷い顔色してるよ?」
ティザーベルに言われた事がショックなのか、フローネルは部屋に備え付けられていた鏡をのぞき込んでいる。
「おじさんも、疲れたでしょ?」
「まあ、それなりにな。ただ、あんな状態で捕まっている連中がいると思うとよ……」
気持ちはわかる。捕らえられている亜人達の環境は最悪だ。売り出す前でも、平気で虐待を加えているのだからたまらない。
「それと、ちょっとネルには付き合ってほしいところがあってね」
「付き合ってほしいところ?」
「聖都に、一緒に行ってほしいのよ」
ティザーベルの申し出に、フローネルの目が見開かれていった。
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