経緯08:精神的に辛かった時期。

心室細動で倒れるのは、ブルガダ症候群で一番危険な状況になります。

そのまま心臓が元に戻れば良いのですが、最悪の場合は死に至りますし、もし倒れた時に頭を強打して脳に損傷があれば、後遺症が残ります。


旦那君が助かったのは、色々な状況が良い方向に積み重なったからで、当時の主治医からも『宝くじに当たるより難しい確率かも』と言われました。


もし当時住んでいた自宅で、寝ている時に発作が起こったら。

通勤中で、倒れた拍子に頭を強打していたら。

倒れた時に、誰も心臓マッサージをしてくれなかったら。


命が助かっても、脳へのダメージが大きければその後の社会復帰にも影響があるし、本人はもちろん、支える家族にも様々な負担がかかるのが現実です。


私たちの場合、ある意味ブルガダで考えられる最悪の状況からのスタートだったので、悩む猶予はなく、ただ現実を飲み込んで受け入れて、進んでいくしかありあせんでした。

結果として障害もほとんど残らず、4年経った頃には経済的にも倒れる前と同じに立て直すことができましたが、患者会で話を聞くと、なかなかそうもいかないケースもある事を知りました。


たとえば、仕事について。

ICDを植え込むと、運転免許に幾つかの制限が出ます。

中型及び大型免許、それに二種免許は原則返納となりますし、二輪車もバイクの種類によってはICDに影響が出る可能性があります。(ICDの手帳の注意事項の項目に記載があると思います)

運転業務で生計を立てていた場合は、植え込むことで仕事を替えたり、辞めたりしなくてはなりません。

また、溶接等の電気関係も同様にICDへの影響が懸念されるため、仕事の継続は難しくなるそうです。


旦那君の場合は、パソコン関係だったのでそれほど影響はありませんでしたが、それでも最初の退院後は職場の配置転換があり、それがどうしても本人に合わなかったそうで、早退や欠勤が増えたり、退職願を出していたりしました。

退職願を出していたことは、会社の上司からの電話で初めて知り、本当にどうしたらいいのか悩みました。

(上司から電話があった)その日は無断欠勤していたそうで、その件でも驚きつつ、何とかその場を取り繕い、旦那君にどう聞いたらいいのか、どう接すればいいのか悩みました。

病気やICDに対しては、私から見てもすんなりと受け入れていた旦那君ですが、仕事のことに対しては、なかなか折り合いをつけていくのが難しかったようです。

横から見ていても、旦那君がうつ病になるのではないか……と心配で仕方がなかったです。


ブルガダ症候群と診断されたり、ICDを植え込んだりした後に、メンタルを病んでしまう方も少なくなく、主治医からも半分くらいは心療内科にかかるからと言われていました。実際に患者会でも、心療内科で診てもらっている方は少なくなかったです。

命に係わる病気ですし、また『障がい者になる』という事への心理的葛藤も大きいようでした。

また仕事を替えたり、場合によっては辞めざるをえなかったりしますし、そういったことへの不安や心配も正直あります。

将来に対する不安、特に就職や結婚、出産などは、20代で植え込んだ自分たちにとって大きなイベントでしたし、今後の生活を考えるうえでとても大切でした。


もし旦那君が仕事を辞めたとして、再就職できるのか? 娘の育児は? これから先、どうやって生計を立てるか? そういった不安や心配が噴出した時期でした。

旦那君の精神状態もあまり良くなかったですが、私自身も先行きの見えない不安に悩まされていました。

旦那君のストレスの大きさは、ICDの定期検診で明確に分かりました。ICDに記録される不整脈の数がこの時期は多く、それまでは0回だったり多くても3回だったですが、配置転換後は10回近く、時にはそれ以上の回数で記録されていました。


この時期は、家庭ではなるべくストレスなく過ごせるように心掛けていました。

当日に欠勤したり、連絡なく早退したりしても、あまり気にしないようにしました。平日であれば、いっそ欠勤したら家族で出かけてしまったり……(苦笑)

ストレスの原因がはっきり分かっていたので、対処方法も分かりやすかったのが救いでした。ただひとつ、収入がどんどん減っていくのが本当に不安でしたが……。


その後、少しずつ旦那君も仕事との折り合いがついてきたようで、ちょっとずつ欠勤や早退が減りました。

夫婦の話し合いも意識して多くするようにしました。

旦那君のストレスは何が原因なのか、これからどうしていきたいのか。

私は何が不安で、辛いと感じているのか。

とにかく何でも話し合うようにしていました。


それからまた再度の配置転換があり、倒れる前の仕事業態とほぼ同じ感じになると、ストレスも軽減されたらしく、ICDの定期検診でも、不整脈の数が目に見えて減りました。身体と心は繋がっているんだなぁと、しみじみ感じた瞬間でした。



瞬間的に一番辛かったのは、倒れた当日から目が覚めるまでの4日間ですが、じわじわと蓄積していくような辛さが続いた1年半もきつかったです。

それぞれ辛さの質が違うので、対処の仕方も違いました。

また、後者の辛さは旦那君が社会復帰できたからこそのものであるので、いくらでも対応のできる類のものでした。

前者は、自分の力や努力でどうにかできるものではなくて。ただじっと耐えるしかない辛さは、やっぱり苦しいだけでした。

それに比べれば、ある程度は対応できる(仕事や生活の質など)辛さや悩みは、ひとつずつを丁寧に組みほどいていけば、なんとかなるものが多いと感じています。

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