13 兵法第一帖 第三段 四人の若武者、立ち上がる
☆知念章、岩崎夏美、宮原亜矢、斉藤文哉
「こっち、こっち」
岩崎夏美がお昼に食堂でトレイを持ったまま約束の人を捜すと、テーブルの三つ向こうから宮原亜矢が声をかけてきた。トレイをテーブルに置くと、すでに知念章と斎藤文哉も待っていた。四人は年齢は異なるが、もとは同じ部署の職員だ。
誰も四人が一緒に食事をしていることを気にしない。だから、食事をしながらひそひそと話しているのを、気にせず通りすぎる。四人の顔つきがしだいにきりりと上気していくことに、気がつく職員はいない。
「よし。ぼくはそうする」四人の中ではリーダー格の知念章がいった。
「怖い。やめようかな」と岩崎。こういう弱気な言い方は彼女の特徴だ。
「私も初めから決めていた」誰かが決めれば自分も初めからそうだったと言うのは宮原のいつもの態度だ。
「……、やっぱりまずいかも」悲観的なのは斎藤の癖だ。
「知念だけ行って、断られたら?」
「それより、なぜ知念さんだけで、他の人は?って言われるかも」
「それなら俺も一緒に行くかな」
「断られるなら一緒に断られよう、ってこと?」
「じやあ、私も……」
「私もって、どうするの? 行くの、行かないの?」
煮え切らない、堂々巡りは、彼らの強い希望と恐れがあるせいだ。
皆食べながらも、ときおり黙る。
知念はさらに厳しい顔になった。何かの選考といって、自分が選ばれる自信はない。自分だって怖い。
「公務員になってもう一回、選ぶ選ばれるなんて緊張を味わうなんて」
「入ってしまえば県庁はそういうところがないものだと思っていたのにな」
「私たちには、この部署に入る資格も理由もあるはずよ」
「でも自分から人事を申請するなんて、ありかな」
「申請したら、配属されるかな」
「……やっぱ、やめようかな」
皆が否定的になるなか、知念はもう一度自分に言い聞かせるように、つぶやいた。
「……とにかく、ぼくは行ってみる」
そう言って、知念はひとり立ち上がった。
すると全員が立ち上がった。
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