よろしく、ロボトミー

深夜太陽男【シンヤラーメン】

第1話

 そんなに怖がらなくていい。これは科学なんだよと、ドクターが言った。

 僕は脳の手術を受けた。ノーベル賞も受賞した素晴しいやつ。僕はそれまで気弱な性格でうまく自分のことが伝えられず周りとのコミュニケーションがうまくとれなかった。学校には馴染めず、いじめられて、欝。両親にも責められて癇癪を起こしてばかりだった。

 しかし術後の僕からは『心の痛み』がサッパリと消えてしまった。負の感情が何も生まれず、気分はいつでも晴れやかだった。怖いものは何もない。僕は最強だ。


 隣の家の犬がうるさかったので殺した。前から注意してたのに飼い主は改善しようという意思が見られなかったのだ。飼い主は悲しみ、両親は僕を叱った。また新しい、できれば吠えない静かな犬を飼えばいいだけの話なのに。


 クラスメイトが新しい靴を買ったことを自慢していた。僕もそれが気に入ったのでもらうことにした。靴を無理矢理脱がして履こうとすると怒られた。どうして怒られなきゃいけないのか理解できなかった。先生まで僕を止めようとするので、僕は先生を殴った。


 前から僕をいじめてくる奴らが今日も絡んできた。サイボーグ制裁と言って頭を叩いてくる。僕は勉強に集中したかったのでそいつらを椅子で叩きのめした。何度も、何度も。ようやく動かなくなったので僕は勉強を続けた。


 好きな女の子と結ばれたかったので僕は彼女を羽交い絞めにした。彼女は抵抗して暴力をふるってきたので、僕はその子の首を絞めて動かなくなるまで待った。そうしているうちに僕は警察に捕まった。


 『心の痛み』がなくなって想像力が欠如してしまったと医者が言っていた。それが悪いことだと僕は思えなかった。辛いことがなければ幸せなんだし、何より僕は勇気を以て行動できるようになったのだ。誰も僕の生き方を邪魔できない。僕は他の誰よりも優れた存在で、みんなが僕に合わせるべきであるのだ。罪の意識だなんて心が弱い証拠だ。

 大人たちが僕に向かって一生牢屋に入ってろだとか死刑になってしまえとかほざいている。僕はそんなの全然怖くない。だって僕に負の感情は生まれない。何があっても心は痛くならないのだから。僕は最強なんだ。

 素晴らしい手術で僕の人生は最高にハッピーになったんだ。だからこれからも、よろしく、ロボトミー。

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