死ねば生きれるデストピア

死ねば生きれるデストピア~死税生活者A~

この文明地域に転生してきた転生生物は、必ず「決まった死に方で死ぬと奇跡が起こせる力」を手に入れる。どのような死に方でどのような奇跡が起こせるかは生物によって違うが、共通していることがある。それは「老衰以外の死からは蘇生できる」ということだ。


つまり、死の苦痛に耐えるなら、何度でも奇跡を起こせる。


ここは、死の力によって栄える死想郷デストピア


………


「死税納税希望者でしょうか?」

この国では、死税を納めれば、暫くの間は働かなくても生きていけるだけの援助を国から受けられる。


「次の餓死期は三日後だったよな?」

「はい、その予定ですが、多少の誤差はありますので」

「それくらいなら構わん。今日にしよう」

「わかりました。では用紙に記入の上で奥へどうぞ」

男はなれた様子で用紙に必要事項を書き込む。名前、死民番号、前回の死税納税日、決まった死に方とそれによって発生する奇跡、希望の死に方……。一通り書き終え、役所の奥へと進む。


役所の奥には、幾つかの部屋があり、空き部屋を示すランプがついている部屋を見つけると、男はその部屋に入る。部屋の中には、様々な死に方を処すための道具や装置が並んでいる。

「用紙をこちらにどうぞ」

部屋内の職員が、男に手を差し出す。


「えー、今回の希望は安楽死ですね?あなたの場合、今回は特死がありますが、かまいませんか?」

特死、特別死亡奇跡補填の通称。決まった死に方で死ぬことによって発生する奇跡を国に収めることにより、安楽死よりも多くの補助を国から受けられる。

もっとも、どんな死に方でもある程度のエネルギーは発生するため、死の苦痛を選ぶものは少ない。


「いちおう聞いておこうか」

「はい。現在は冬季熱量特別補填期間ですので、あなたの奇跡『焼死によって強力な発熱燃料を生み出す力』は対象となり、次回の死税納税までの期間が通常の三倍となります」

「三倍か、ふむ……」


男はしばし考える。三倍の期間となれば、この冬をこすには十分な期間だ。だが、焼死は苦しい。できれば避けたいが、次の餓死期が納税日と重なるとは限らない。できれば、長く生きていたい。


「わかった。焼死に変更しよう」

「わかりました」

職員は用紙の「希望の死に方」の欄を『焼死』に書き換えると、男を部屋の奥の炉へと案内した。


……その後、男がどうなったかというと、炉の中で足元から吹き出す炎によって焼死した。その顔は全身の皮膚が焼ける痛みに歪み、焼ける空気を吸い込んだ肺からは、声にならない声を上げていた。もう二度とこんな死に方はしたくないと、どれだけ願いながら死んでいっただろうか。だが、それは重要な事ではない。重要なのは、これで当分の間、生きてけるということだ。


男の死から三日後、餓死期が訪れた。国が抱える転生生物の『餓死することで、国中の死者の時間を死ぬ前に戻す力』が発動したのだ。男は役所地下の安置室で蘇る。もちろん、焼死の苦痛は記憶にない。


苦痛を忘れた男は、次回もまた焼死を選んでしまうだろう。だが、どうせ忘れるのだ。


ここは、死ねば生きれる死想郷デストピア

生きるために死ぬ死想郷デストピア

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運悪く異世界から転生してきた奴に「お前はしょせん村人Aだ」と教えてあげる仕事が辛い デバスズメ @debasuzume

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