転生生物狩猟者ガルード&フィフ~標的:バカでかい4本腕の獣~
「よぉし、今日は久しぶりに肉だぜ」
「よしたほうが身のため。アイツおそらく新種。毒あるかも」
「大丈夫だろ?この前食ったヒグマってやつに似てるからたぶん仲間だ」
「まあ良い。とにかく捕まえる。話それから」
「はいよ!」
2人は、狩りを開始した。
………
異世界から様々な生物が転生してくるこの世界には、さまざまな文明がさまざまな地域で似た者同士が集まって生きている。
妖精と契約してその力を借りる妖精文明地域、蒸気機関が異常に発達した蒸気文明地域、電子機器が当たり前のように存在する電子文明地域、他にも無数の文明地域がある。
だが、この文明地域より危険な場所は、この世界でもあまり存在しない。
ここは、狩猟文明地域。狩るのは、敵対的な異世界転生者。
………
「ゴアアアアアッ!!」
森のなかに響く咆哮を上げる巨大な獣(小さな小屋みたいな大きさだ)、今回の狩猟対象だ。
どこの世界から転生してきたかは分からない。ただ一つだけわかることは、コイツが敵対的だということだ。
「まずはその腕ぶった切ってやらぁ!」
森林迷彩柄ロングコートからナタを取り出して突撃するのは、”万武器(よろずぶき)”のガルードだ。
迎え撃つ巨大な獣は、4本の腕を大きく広げて威嚇する。
屈強なガルードはお構いなしにナタを振りかぶり、向かって右の下の腕を切り落としにかかる。
「オラァッ!」
ガルードのナタは見事に獣の腕を切り落とした、はずだった。
だが、腕が切れるどころか、傷一つついていない。
「ありゃ?」
油断したガルードはそのまま獣の反撃を受ける。
横から力任せにぶん殴られて吹っ飛んだ!吹っ飛んだガルードは木に激突!まさか死か?否!
ガルードはゆっくりっ立ち上がる。出血は見当たらない。
「やはり新種。食うのやめておくが吉」
ガルードの耳に声が届く。通信機だ。
「うるせえ!ちょっと油断しただけだ!アイツは絶対に食うぞ。んなことより罠の方はどうだ?」
「順調。でももう少し時間稼ぎほしい」
通信機でガルードと話しているのは、”雁字搦め(がんじがらめ)”のフィフ。
フィフが得意とするのは罠だ。ガルードのような武力は無いが、知識と戦略がある。
ガルードとフィフは、チームを組んでかなり長い。お互いに信頼しているからこその乱暴な口ぶりだ。
ガルードが時間を稼いで、フィフが罠をはる。そしてフィフが罠に誘導し、ガルードがとどめを刺す。そうやって何体もの転生者を狩ってきた。
「時間稼ぎ?どれくらいだ」
「”万武器”がもう一度だけ木に激突するまで」
「ハッ!そりゃあ永遠ってか?もう二度と失敗はしねえぞ?」
「冗談。ただ、あいつ新種。気をつけるに越したこと無い」
「オーライだ”雁字搦め”」
狩りの最中、2人は(というより狩猟文明地域の狩人達は)お互いを本名で呼ばない。
本名がバレていると狩猟対象の仲間に寝こみを襲われるとか、魔法を使える狩猟対象に呪われるとか、理由はいろいろある。
あとは、単純にカッコイイからだ(ガルードとフィフはこれが一番の理由だと思っている)。
小屋ほどもある獣は、ガルードに向かって突撃してくる。今度はガルードが迎え撃つ番だ。
「刃物がダメなら打撃が基本ってな」
ガルードはロングコートから身の丈ほどの巨大なハンマーを取り出した。それを両手で構え、獣を睨む。
身の丈ほどのハンマーがコートの中に?然り。普通のコートならばそんなものは収まらない。
では、ガルードのコートは物体を転送させる特注品か?否。これはガルードの超能力だ。
ガルードの超能力は【無機物の圧縮と復元】。これにより、コートの中には多くの武器が仕込まれている。
そして、それらの武器は同時に、攻撃を防ぐ鎧でもある。
圧縮した武器は、重さも軽くなる。つまり、それだけ大量の武器を用意することが出来るということだ。しかし、大量に武器を仕込んだコートの総重量は、ガルード自身の重量とほぼ同じだ。
この超能力を狩りに活かすためにガルードは、ひたすら筋トレをして鍛えたのだ(武器の使い方を工夫するとかそういう方向に頭が回らなかった)。
「ゴアアアアアッ!!」
咆哮を響かせて突進する獣!このままではガルードはもう一度だけ木に激突だ!
だが、それに合わせて、ガルードは大きく飛び上がった!
獣はそのまま頭から木に激突!小屋みたいな大きさの獣が、小屋みたいな高さの木をなぎ倒す!
獣は立ち上がって周りを見る。だが、そこにはガルードの死体はない。
「これでも喰らいなぁ!オラァッ!」
獣の上から、ガルードのハンマー振り下ろしが獣の頭に直撃!並の獣なら少なくとも気絶は免れぬ衝撃!だが!
「おいマジかよ」
獣はまるで殴られたことなど無かったように、立ち上がったではないか!
さすがにガルードもなにか違和感を感じていた。
「おい、”雁字搦め”。なんか様子が変だぞ」
フィフに通信。
「やな予感する。罠地点いつもの場所に配置完了。準備急ぐ」
「よし、そっちに向かうぞ。ん?準備ってなんだ?罠はもう仕上がったんだろ?」
「こっちの話。”万武器”はとにかく急ぐ。」
「オーケイ、信じてるぜ!」
ガルードは役に立たなかったハンマーを投げ捨て、トンファーを取り出した。攻撃を受け流す武器としては、この場では最適だ。
「さあ、来いよ!」
獣に魅せつけるようにトンファーフットワークで獣を挑発!
「ゴアアアアアッ!!」
獣もそれに応じて咆哮!大ぶりの攻撃を繰り出す!
ガルードは獣の攻撃を受け流しながらじわじわと後退する。罠の場所まではもう少しだ。
「ゴアアアアアッ!!ゴアアアアアッ!!」
獣の力任せの攻撃が続く!ガルードがそれを受け流しながら後退!
獣の腕は4本。対するガルードの腕は2本。攻撃量は防御量の二倍!
だが、ガルードの巧みなトンファーさばきは、それらを全て受け流す!
筋トレの力だ!
誘導は順調か?そう思われた時だった。
「がッ……!」
獣の攻撃を受け止めたガルードが、それまでに見せなかった苦痛の表情!何が起きたのか!?
獣の腹から出たる煙が示すもの、それは銃器!ガルードは左足から出血!
「マジかよクソ!」
ガルードはフィフに通信。
「おい”雁字搦め”!こいつぁ獣じゃねえぞ!」
だが、フィフからの返信が来る前に、ガルードは吹き飛ばされた!
本日二度目の木への激突!
「ちょうどいいタイミング。準備整った」
フィフからの返信だ。
「ちょうどいいタイミング、か。全く!”雁字搦め”の見込みはいつも正しいんだよなあ!」
獣がガルードに突撃!だが、そこはすでにフィフのトラップ地帯!獣の足元が爆発し、煙が辺りを覆い隠す!
「ゴアアアアアッ!!」
煙が晴れたそこには、地雷式捕縛ワイヤーで絡め取られた獣がいた。だが、様子が妙だ。
「やはりコイツ食えない。とどめ刺すよ」
ガルードが激突した木の後ろから、フィフが姿を表した。
フィフは一見すると小柄。戦う狩人としては十分な体格ではない。
だが、それは些細なことだ。フィフの戦いは肉体ではなく、頭脳だ。
フィフが右手の機械のスイッチを押すと、獣を捕らえた罠に電気が走った。
「ゴアア……」
獣が沈黙する。狩りは終わったのだ。
「足、大丈夫か?」
「どうってことねえよ。町の魔法使いに頼めば一発だ。そんなことよりコイツは……」
ガルードとフィフは、罠にかかった標的を見る。
「機械だな」
「そう、機械」
さっきまで獣だと思っていたものの中身は、ロボットだった(ロボットだって、死ねば転生することもある)。
「ロボット食べる所ない」
「んなこた分かってんだよ。まあ、機械屋にでも売っぱらえばいいだろ」
「そうね。”万武器”がロボット食うなら別だけど」
「食わねえよ!」
「そうね」
………
結局、頭部への強打と電気ショックでぶっ壊れたことが原因で、獣(もとい獣型のロボット転生生物)は、かなりの安値(同じサイズの獣とくらべて半分くらい)で売れた。
ガルードとフィフはその晩、町の一角で安酒の祝杯をあげていた。
「割に合わねえ仕事だったぜまったくよお」
「乱暴な罠使った。仕方ない」
なんだかんだで狩りが終わった2人は上機嫌だ。生きているって素晴らしいのだ。
「あーあ、フィフがもうちょっとマシな罠使ってくれりゃあ、今頃もっとうまい飯が食えてたのになあ」
焼いた干魚を齧りながら酒を飲むガルード。
「ガルードの攻撃も原因。後先考えなさすぎ」
茹でた豆を食べながら答えるフィフ。
「しかたねーだろ。ロボットだとは思わねーよ……ん?ちょっと待てよ!」
ガルードが、酒の入ったグラスをテーブルに叩きつけて言葉を続けた。
「フィフお前あのとき準備がどーのこーの言ってたけどまさか!」
「あー、まあ、そう」
いつもは表情の変わらないフィフが、にやりと笑った。
「テメーこのやろうロボットだって分かってて黙ってやがったな!?」
ガルードも、にやりと笑いながら言った。
「だって、そうしないとガルードまた油断する」
ガルードは、過去の狩りでロボットを舐めてかかって死にかけたことがあった。
「ガルード強い。でも、敵の正体知ると油断する。悪い癖」
「ハッハッハ!そりゃあ違いねえ!やっぱりお前は最高の相棒だぜ!」
「ヒッヒッヒ、お互い様」
2人はそれから、いつものように笑いながら酒を煽り、いつものようにお互いをたたえ合った。
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