転生狩猟ガルード&フィフ

転生生物狩猟者ガルード&フィフ~標的:長い長い川ウナギ~

「おい、でけえのが来やがった!釣りは中止だ!」

「了解。武器は?」

「あるだけで何とかするしかねえな。そっちの罠は?」

「車に十分」

「流石に用意周到だな。いつものパターンで行くぞ、”雁字搦め(がんじがらめ)”」

「了解、”万武器(よろずぶき)”」

”万武器”のガルードと”雁字搦め”のフィフは、お互いの狩名(かりな)を呼び合う。ここからはビジネスの時間だ。


狩りの最中、2人は(というより狩猟文明地域の狩人達は)お互いを本名で呼ばず、仮名で呼び合う。

本名がバレていると呪われるとか、知的敵対転生生物に寝こみを襲われるとか、理由はいろいろある。

あとは、単純にカッコイイからだ(ガルードとフィフはこれが一番の理由だと思っている)。


………


異世界から様々な生物が転生してくるこの世界には、さまざまな文明がさまざまな地域で似た者同士が集まって生きている。

妖精と契約してその力を借りる妖精文明地域、蒸気機関が異常に発達した蒸気文明地域、強靭な竹を加工して暮らす竹文明地域、他にも無数の文明地域がある。


だが、この文明地域より危険な場所は、この世界でもあまり存在しない。

ここは、狩猟文明地域。狩るのは、敵対的な異世界転生生物。


………


今日は元々、レジャーの予定だった。2人で湖に釣りに来ていただけだったのだ。

だが、敵対転生生物が突然現れたことで、2人の休日は中断となった。


通常、敵対転生生物の狩りは、狩猟組合の依頼を受ける形で行う。

強い獲物を狩るためには、それなりの実力と準備が必要だからだ。

転生生物狩猟者の中には、獲物の探索を専らとし、発見報告をする事で生計を立てている者もいる(特に被害が多い獲物の目撃情報には高値がつく)。


しかし、今回のように、狩猟組合を仲介せずに行う狩りも認められている(ただしその場合、組合の支援は得られない)。

腕に自身のある狩人は、自分で探して自分で倒す。

ガルードとフィフも、腕には自身があった(やや過剰ではあるが)。


すさまじい水しぶきとともに2人の前に現れたのは、湖のど真ん中に落ちてきた巨大な蛇のような転生生物だった。

体格の良いガルードの身長と比較しても、その2倍はあろうという全長だ。

だが、獲物は湖から出られない(とガルードとフィフは思っている)。この狩りの主導権は2人にある(とガルードとフィフは思っている)。


「ヤツはやっぱりあれか?ウナギってやつか?」

静まり返った水面を睨みつけながら、ガルードはフィフに問う。

「少し待て。見る」

フィフはそう言うと、目を閉じた。


フィフとガルードは、超能力文明地域の出身だ。つまり、超能力が使える。

フィフの超能力は、【遠くを見通す】というもので、目を閉じている間であれば、たとえ水の中であろうが見ることができる。

「色は黒……いや、青。細長い体。鱗とヒゲある。ウナギにしては大きすぎ」


フィフが目を開けた。

「あれウナギ違う」

「ああ?鱗だ?ってことはアレか。えーっと……」

「おそらく水竜」

「それだ!水竜だ……水竜ってなんだっけ?」

ガルードとフィフは、過去に一度だけ竜を狩ったことがある。

が、ガルードはその名を忘れてしまったらしい(そもそも覚える気があるのだろうか)。


「前の記録読む。思い出せ」

フィフは再び目を閉じる。

読むとはどういうことか?


目を閉じたフィフの目に映るのは、遠く離れた自室だ。

そこには、今まで狩った獲物の記録を書いた、紙やノートが散乱している。

「どこだったか」

フィフの視界が、整理されていない紙の束に潜る。

記録の深海を潜るように、フィフの視界は深く進んでいく。


本棚の本を横から貫通するように眺める。が、無い。

山と積まれた紙の束を上から覗く。が、無い。

……いや、求めている情報は、その奥深くにあった。


「あった。読み上げる。『水竜。水中に生息。魚食べる害獣。硬い鱗、斬撃は効きにくい。打撃か刺突が有効。肉は美味』」

「思い出したぞ!アイツか!」

フィフの言葉を遮るようにガルードが声を上げる。

「あの肉は美味かったなぁ……よし、なんとしてもアイツを食うぞ」

ガルードは好物の肉が食えるとわかって俄然やる気だ(皮算用もいいところだが)。


「外見特徴完全一致。新種じゃない。食うの安心」

フィフがニヤリと笑う。まんざらではない。

「そう決まりゃあ、罠の用意だ。いつもみたいに頼むぞ、”雁字搦め”」

「問題ない。”万武器”は槍、あるか?」

「3本だ」

「悪くない。外すなよ」


「ハッ!外すかよ!それよりそっちの罠も不発なんてことにならねえようにな!」

「ヒヒッ!愚問!」

2人は笑った。


………


「……なあ、どういうこった?そろそろ待つのも飽きてきたぞ」

寝転がったガルードが、しびれを切らしたようにフィフに問う。フィフが罠を仕掛けたのは真昼だったが、今はすでに夕暮れだ。

「水竜、警戒心強い。まだ動かない」

フィフが罠を仕掛け終わってから、フィフはずっと左目に眼帯を付けている。その左目は、ずっと標的を見ているのだ。


「こんなんだったら、釣りしてりゃよかったな」

ガルードの忍耐がそろそろ限界かという所である。そのときだ。フィフの目つきが変わり、時が止まったかのように風が凪いだ。

「来る」

フィフが静かに言った。


フィフの左目には、餌を求めて動き出す標的の姿が見えていた。

標的の求める餌、つまり、水竜の好物の魚をふんだんに使った罠だ。

「よぉし!釣った魚を全部罠に使った価値はあったぜ!」

飛び起きたガルードはロングコートから投げ槍を取り出す!


「カウントダウン!5、4、3……」

フィフが秒読みを開始!ガルードは槍を構える!

「いつでも来いやオラ……!」

「……2、1、0!」


フィフのカウントダウンが0に達したと同時に、固定網の罠が発動した!

この湖の魚を傷つけるような電気の罠や爆薬の罠は使えない。そういう時に仕えるのが、この固定網の罠だ。

この罠は、一定の範囲に強靭な網を張り、標的を逃がさないためのものだ。標的に合わせて網目を変えることで、様々な狩りに使用できる。


逃げ場を失った水竜は、固定網の罠を破壊しようと暴れまわる!

フィフが仕掛けた罠の広さは、水竜がちょうど収まる範囲だ。狩人の人数が多ければ、このまま力任せに陸に引き上げられたであろう。

だが、ここにいるのはガルードとフィフの2人だけだ。罠ごと逃げられるかどうかは、ガルードの投槍の腕前にかかっている!


「外すなよ」

「わかってるよ!」

ガルードが狙いを定める!槍は3本。わずか3投で、水竜の眉間を貫かねばならない!

「オオォォォォラァッ!」

ガルードの投槍が放たれる!


「ゴオォォォォッ!」

水竜の悲鳴!致命傷か!?否!

「くそ!避けやがったな!」

ガルードの放った槍は水竜に刺さらなかった!


「あの水竜、眼が良い。頭狙い避けられる」

フィフはいつでも冷静だ。

「んなこと言っても今の武器じゃ頭に一発ぶち込むしかねぇ!残り2発で仕留めるぞ!」

ガルードは2本目の槍を構える!


水竜は引き続き固定罠の破壊を試みて突撃!だが、そんなことで破壊される罠ではない!

「おい”雁字搦め”、ヤツが罠に噛みつく瞬間を教えてくれ」

「了解」

この時、ガルードとフィフは、決して落ち着いいるわけではなかった。だが、集中は極限に達していた。


「……噛む!」

フィフが水竜の動きを見極める!

「ウゥゥゥ……ラッ!」

フィフの声に合わせ、ガルードが槍を投げる!胴体に直撃!

「ゴォォォオ!」

水竜の断末魔か!?


否!

「ゴァァアッ!」

水竜が首をもたげる!そしてそのままガルードたちを食い殺そうと倒れこむ!

だが!

「この時を待ってたぜぇ!」

にやりと笑うガルードが最後の槍を構えていた!

「くたばれオラァ!」

最後の槍が、水竜の口に吸い込まれるように飛ぶ!


「ゴガッ!」

ガルードの最後の投槍は、水竜の口から頭に向かって貫通した!

水竜は水に沈み、そしてガルードが引き上げるまで浮かんでこなかった。


………


その夜、大物を捕らえた2人は、湖の側でキャンプをしていた。

「やっぱり刺身はかかせねえよな!」

ガルードは、薄切りにした竜の生肉に塩を振って食う。水竜の肉は筋肉質で脂身がないが、歯応えと旨味は強い。

「かぁー!美味え!」


「出汁も美味い」

フィフは焚き火の側で竜肉のスープを味見する。

水性生物の竜肉は川魚じみた風味があり、煮出すと独特の深みある味が出る。

この出汁に香草を加えれば、それなりのレストランでも提供される品になる。


「あとは定番の焼きだな!」

キャンプファイアの火は、あらゆる料理を美味くするスパイスだ。

鱗を履いだ竜の肉が、焚き火でじっくりと焼けていく。

ときおり肉汁が滴り落ち、焚き火の熱で蒸発する音が聞こえる。


「まったく、今日は美味い狩りだったぜ!なあフィフ!」

狩りの時間は終わった。今はもう、2人にとっては休暇の時間だ。

「大漁。明日は急ぎ街に帰る」

「だな!食いきれねえ分をとっとと売っぱらわねえとな!」


こうして、珍しく順調だった2人の上機嫌な夜は更けていった。

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