第22話 パチもんの文化


いにしえの漢民族は、羅針盤、火薬、紙、印刷を発明するなど、

創造力にあふれた偉大な民族だったはずです。

しかし現在の中国の市場は、残念なコピー商品だらけで猖獗しょうけつをきわめております。


哆啦A夢(ドラえもん)もどきや米奇老鼠ミッキーマウスくずれのキャラクター。

KONIKAならぬKONKA、TOSHIBAかと思ったらTOZHIBA、

SHARPかと思ってよく見たらSHAPR。SONYかと思いきやSQNY。

KONKA(康佳)に至っては、中国市場ではあまりにメジャーになりすぎて、

むしろKONIKAの方こそが、KONKAの偽物だと思っている人もいます。

Appleの製品も精巧な偽物が市場にあふれています。

Iphoneの偽物のHiphoneはもう、中国ではなんだか市民権を得た感があります。

ちゃんとしたAppleの専門店で買ったら安心か、というと決してそうではなく、

Apple専門店そのものが、じつはApple社とまるで関係のない、

店舗ごとよく出来た偽物だったりします。


私が中国に行った2006年当時、中国ではVCDというビデオCDが主流でした。

一枚5元(今のレートで77円)から10元ほどの値段で露店などで売っています。

2008年の夏のある日、

私は露店で、宮崎駿監督の「悬崖上的金鱼公主」、

つまり、「崖の上のポニョ」のVCDを発見しました。

日本で公開されて間もない頃。まさか本編のわけがありません。

日本円にして100円やそこらで本編が買えるわけありませんから、

きっとメイキング映像の類だろうと思い、買ってみました。

家に帰り再生してみると、

まぎれもない「崖の上のポニョ」本編の映画が始まるではありませんか。

画質と音声がなんとなく不鮮明ですが、しっかり中国語字幕も添えられてます。

しかし日本で公開して間もないのに、なぜ中国でコピー商品が出まわるのか、

どういうカラクリなのか、首をかしげました。

そのうち「崖の上のポニョ」を見ていると、 突然、テレビ画面に黒い人影が現れ、

テレビを見ているこっちに向かって歩いてきます。

迫るほど人影は大きくなり、そのうちフレームアウトして消えました。

そしてまた、しばらくするとその人影は、またフレームインしてきて、どんどん小さくなり、フェードアウトして消えました。

そこでようやく謎が解けました。これは映画館内で盗撮された映像なのです。

そしてあの黒い人影は、トイレにでも行こうと、一度、席を立った観客の一人なのでしょう。

違法コピー商品を買ったり見たりすることは、日本では厳密に言うと、もとい厳密に言わなくても犯罪行為にあたるとのことです。

弘法大師に誓って、本編とは知らずにうっかり買ってしまいました。

この場を借りて、宮崎駿監督ならびにスタジオジブリの皆々様に

深くお詫び申し上げます。


こういった違法コピー商品(盗版ダオバン)や偽ブランド品、

いわゆる「パチもん」を総じて、 中国語では山寨シャンジャイと呼びます。

山寨シャンジャイとは、もともとは山賊の砦を意味します。

なぜ、パチもんを山寨と呼ぶようになったのか。

由来には諸説ありますが、90年代、経済特区の深圳シェンジェンでは、違法コピーの携帯電話を大量に製造していました。

携帯電話の製造地を、深圳の頭文字をとってSZと記していて、そのうちSZシェンジェンが訛ってSZシャンジャイと呼ばれるようになったとも言われています。パチもんも、一種の文化だと開き直って、

山寨文化シャンジャイウエンフア」という言葉まで生まれました。



日本や韓国、東アジアのいたるところで、龍の彫像や絵画を見ることが出来ます。

古代の中国では、龍は皇帝の象徴でした。

皇族以外の者が龍のデザインを用いることは不敬とされ、死罪に処せられます。

しかし、龍はたいへん縁起が良いものですし、

庶民であっても龍の彫像や絵画を飾りたいものです。

もし役人に見つかれば、死刑になります。そこで一計を案じます。


上有政策シャンヨウジョンツー下有対策シアヨウトエツー

    (お上に政策あれば、下々には対策あり)


皇帝の象徴である龍は、本来、五本指で、

五爪龍ウージャオロン」とも呼ばれます。

そこで庶民は、わざと四本指や、三本指の龍を描きます。

指の数以外は、まったく龍そのものです。

飾ってある龍の絵画が役人に見つかり、とがめられたとしましょう。


「貴様、おそれ多くも龍の絵を飾っておるな!不敬罪で逮捕する!」


「旦那、滅相もございません。今一度、指の本数をご確認ください」


「イー、アル、サン、スー、、、、哎哟アイヨー!一本足りないアルよ」


「指が五本あってこその龍です。この絵は、龍に似た別の動物、ということになります」


「なるほど、それでは仕方ない。勘弁してやろう」


とまあ、こんな感じで言い逃れできるわけです。

四本指や三本指の龍は、すなわち「パチもん」の龍であります。

龍ならぬ龍。KONIKAならぬKONKA、IphoneならぬHiphone。

山寨シャンジャイは、昨日今日、始まったことではありません。

いにしえより綿々と続いてきた、

しゃらくさくも微笑ましい、漢民族の悪知恵のようです。



                          合掌





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