第21話 一対なる美
目、手、血、木、蚊、火など、 日本語は一音節の単語が非常に豊富な、 世界的に見ても珍しい言語です。これらの単語は当然、漢字一字だけで表します。
中国語では、滅多に漢字一字だけで表すことをしません。
漢字一字だけだと、なんとなく半端な気がして、なにかしら漢字をひっつけて、どうにかして二文字にしようとします。 現代日本語にもある、椅子、帽子、扇子、餃子などの「子」の字は、まさにその典型です。
蚊も中国語では「
鼻も「
子の字以外にも、たとえば木を「
中国人は、張、王、李などの苗字の人を、一字で呼ぶことはありません。
自分より年上だったら、「
中国で好まれる、縁起の良いラッキーナンバーは8、次いで6です。8並び、6並びのナンバープレートは一種のステータスであり、たいへんな高額で売り買いされています。
一般的に奇数は好まれません。日本における七福神は、中国においては「
例外的に
奇数を
西安などの中国の古都に行けば、都市の設計や建物のデザインが、徹底的に左右対称に作られていることに気づきます。たとえば鼓楼と鐘楼は東西で一対に建てられています。
左右対称のレイアウトを美とするのが中華の美的感覚です。左右対称にお団子型に結ってある髪型が、クラシックな中国人女性の髪型でしょう。 そもそも「中華」という漢字自体が、左右対称のデザインをしています。中国人は一般的に、滅多に謝りません。中国語で「ごめんなさい」は「
申し訳なくて、合わせる顔がない、面子が無い。相手と「対をなせない」ことを意味します。「対をなせない」事を民族的に嫌うのです。
お大師さまは、唐の文化の神髄を体得した希有な日本人です。
著書「
その影響からか、お大師さまの生涯は、一対の言葉たちに彩られています。
「生まれ生まれ生まれ生まれて生の始めに暗く、死に死に死に死んで死の終わりに
「虚しく往きて、実ちて帰る。」、
「人の短を
「物の興亡は必ず人に由る、人の昇沈は定めて道に在り。」
これらのお大師さまの御言葉は、ことごとく上の句と下の句が一対になっています。
真言密教の世界観も同様に一対であります。真言密教は、大日如来の智慧の世界を顕した金剛界と、慈悲の世界を顕した胎藏界が一対になっています。
いわゆる、
偶然なのか必然か、お大師さまを高野山に導いたのは、白い犬と黒い犬でした。
そして御自ら名乗った、「空海」という僧名までもが、空と海の一対をなしています。
お大師さまが漂着した福建省霞浦県、赤岸鎮にある小学校で、私が現地の子供たちに、「あいうえお」からの読み書きや、日本語の簡単な挨拶、日本の民謡などを教えていた頃、「平仮名はお大師さまが創作した」、という説明をしていました。
しかし、平仮名のルーツには諸説あり、「弘法大師空海が創作した説」はどうやら学術的根拠は乏しく、今では俗説と考えられているそうです。
中国の子供たちに自分が嘘を教えていたとしたら、それこそ「
しかし、つらつら考えてみますに、少なくても「仮名」というネーミングは、やはり、お大師さまが考えたのではないか、という気がします。
お大師さまの著書「
「仮」という字はもともと、旧字体で、「假」と書きます。この字は中国語では、「嘘の」、「偽の」、という意味を持ちます。
音だけを表す仮の名、「仮名」はもしかすると、真の言葉、「真言」の対義語ではないでしょうか。
合掌
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