第29話 ミミとの散歩

年をとってからのミミの散歩は更にスローテンポになった。尚且つ私も学校からの帰りが遅く、夕方ちょっと遅めになってから行くようになっていた。夕焼け色に染まるなか散歩に出かけると、家に着く頃には瞬く星が輝いていた。また散歩コースは結構山深いところだったので、日があるうちはいいが、夕闇が迫ってくると、辺りには電灯も何もないので、真っ暗になってしまい、高校生が一人で歩くにしては、結構危ないところともいえた。けれども私としては、ミミもいるし、大丈夫!暗闇も目が慣れてくれば、見えるしなあと思っていた。一人と一匹は意外にのんきだったのだが、隣のおばちゃんとかは、暗闇の中から突如現れる私とミミを見て、結構驚いていた。こんな暗い中、山のそば歩いていて大丈夫なのかと心配してくれていたようだった。


その山深い散歩コースを通っていた時、一度仔猫に遭遇したことがある。ミミと一緒に歩いていると、どこからか「みゃあみゃあ」鳴く声がして、振り返ると三毛猫の小さい仔猫が一匹、こちらを見ているのだ。猫というとうちの犬は、毛を逆立て、ワンワン、ワンワンものすごくほえたてるのだが、この仔猫を見た時はとても不思議そうな顔をしていた。私もミミも、ものすごく小さな仔猫というものを見たことがなかったので、二人そろって、ぽかんとしていた。そのうちその仔猫は、「みゃあみゃあ」言いながら、私達の方へと寄ってきた。ミミもいるので、ミミが吠えるんじゃないかと思って心配したが、ミミは吠えるどころか、きょとんとしていた。寄ってこられて嫌がるわけでもないけど、なんだかとっても困った顔をしている。一方私も寄って来られても困るなあと思った。


どうみても捨て猫である。うちにはミミもいるし、連れて帰れないし、どうしたものだろうかと思った。しかし、考えたところでいい案も思いつかなかったので、これはもう見なかったことにして帰ろうと思った。飼えもしないのに餌をあげてもしょうがないし、預かることもできないんじゃしょうがないなあと思ったわけである。

それでしかたなく知らないふりして、家へと帰ることにした。冷たいと言われればそれまでだけど、飼えないものは飼えないのである。心を鬼にして家へと戻っていると、仔猫が「みゃあみゃあ」言いながら私達の後をついてきたのだ。私は「駄目駄目駄目。君はこっちに来ちゃ駄目」と言ったが、仔猫は鳴きながらついてくる。わ~ん、どうしよう。困ったなあと私は思ったが、かまってしまうからついてきちゃうわけで、これはもう完全に素知らぬ風を装うしかない。それで完全に無視して歩いて行くと、途中までついてきた仔猫もついてこなくなった。ちらりと後ろを振り返ると、遠くの方の道でひとり寂しくたたずんでいる仔猫がいた。なんだかかわいそうだと思ったが、しかしやっぱり無理なのである。ミミも不思議そうに私を見ていたが、まあ犬にとってはなんのことだか分からないだろうなあと思った。


結局その後、その仔猫を見かけることはなかった。仔猫には申し訳ないことをしたなと思うが、誰かに拾われていることを祈るばかりである。

犬にしろ、猫にしろ、飼い主はしっかり最期まで面倒をみて欲しいものである。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る