第18話 文化祭その2

中学2年の時、私は絵本クラブに入っていた。何をするクラブかというと、字のごとしそのままに絵本を作るクラブである。で、文化祭の時作品を出品しなくてはいけないということとなり、私は絵本を作ることになった。

ストーリーの内容自体は覚えていないのだが、女の子と母親の出てくる話で、なぜか家が貧乏という設定で進む話だった。結末どんなだったか、今となっては記憶にないのだが、とにかくそれが絵本の割には長編で、絵本じゃなくて本にしろよというぐらいの文字量だった。絵を描いてはいるけど、絵よりも文章の方が多くて、その文章を用紙に納めるのが大変で、その結果用紙の枚数を増やさざるを得なかった。


私は作業に手間取り、結局文化祭当日の朝まで絵本の創作にいそしむことになった。文化祭の前日、最初のうちはのんきに絵を描き、色鉛筆で塗っていたのだが、だんだん絵も雑になっていき、気がつけば、夜も10時を過ぎている。文章はできてるんだし、絵と色塗りさえできれば、大丈夫、12時には終わるさ。母にも色塗りを手伝ってもらい、きっと大丈夫と思っていたのだが、予想外に時間がかかり、既に12時である。母にはあともうちょっとだからと言って、先に寝ていいよと言い、私は一人リビングで描きまくった。1時が過ぎ、2時が過ぎ、それでも終わらず、私は焦りまくりだった。えっ、どうしよう、終わらないよ!ひょっとして眠れないんじゃない、私!ちょっと怯えながらも、こうなったら数時間でもいいから眠りたいという睡魔と戦いながら、私は描き続けた。


はっ!気がつけばもう5時である。というか、寝てしまったのか!途中で、寝落ちてしまったらしく、絵の作業が止まっている。ど、どうしよう!まだ終わってないし、というか、もう朝だし。泣きそうになりながらも、作業を続けていると、母が起きてきた。

「あんた、寝なかったの?」と尋ねられ、ちょっと言葉につまった。徹夜したとも言えずに、ごにょごにょしていたが、そんなことより、終わらせなくては!ということで、なんとか朝の登校時間までぎりぎり間に合わせることに成功した。出来はそりゃあ、悪いに決まっているのだ。色塗りは雑だし、おまけに絵本とは言えない分厚い本ができあがっていた。もうどうでもいいから、眠りたいと思ったが、学校に行かないわけにも行かず、文化祭へと出かけた。


文化祭はそれなりに楽しかったが、眠すぎて妙にハイテンションだった記憶がある。そしてできあがった分厚い絵本を展示して、なんとか肩の荷をおろしたが、誰があんなの読むんだろうと正直思った。話もやたら長いし、絵だって汚いし、読まないよなあと私的に思っていた。

が、びっくりしたことが起きた。それほどすごい親しいという間柄ではなかったクラスメートの女の子から声をかけられたのだ。

「あの絵本読んだよ。すごい感動した」と言われたのだ。

あれ、あの絵本そんなに感動する話だったかなあと思ったが、彼女はしっかり全部読んでくれたみたいだった。ほう、よかったあ。描いてよかったとその時しみじみ思ったのである。う~む、徹夜したかいがあったもんだと、少しの間私の眠気が覚めた瞬間であった。


で、事件は文化祭がすべて終了し、ほっとした瞬間に起きた。そろそろホームルームの時間である。これが終われば、家に帰って眠れる、早く寝たい。そう思った私はなんとなく腕を交互にし、その上に頭を置いて目を閉じた。

「シーン…」

なんだかとても静かだ、そう思って目を開けると、周りのみんなが起立しているのだ、そして上を見上げると担任の先生がじっーと私を見ているのだ。

で、先生から一言。

「一番前の席で、爆睡かますとはいい度胸だな」と言って笑われた。

まさか学校で寝てしまうとは! 私の顔はかあーっと熱くなり、はずかしさでいっぱいだった。

後にも先にも学校で記憶がなくなるほど寝たのは、あの時だけだった。

徹夜恐るべし!やっぱり作品作る時は、余裕を持って作らないといけないと思った瞬間だった。

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