第17話 ドラクエとワープロ
私が小学生から中学生にかけて、ドラクエブームが到来した。もともとうちにはゲーム機がなかったのだが、兄が友達からゲーム機を借りてきて、そこで初めてゲームに触れることになる。で、一番最初にやったゲームがドラクエ2で、ファンタジー好きな私にとってはまさにツボにはまったのだ。城が出てきたりとか、王がいたりとか、そして冒険!アクションゲームだと反射神経とかないとかできないが、RPGの場合はコマンドを選ぶだけで勝手に戦ってくれるので、私としても大助かりだった。
私でも勇者になれる!ってところが、ポイント度高かった。本だと印刷した文字を読むだけで、経過も結末も決まっているけど、戦い方や選択をしていくことによって幾通りの冒険ができるところが、ものすごくおもしろかった。
本だって冒険した気分になれるけど、それは本の中の主人公が冒険してるのであって、自分が冒険しているわけではない。その点、ゲームは自分が本当に冒険しているのであって、そのリアルな感じがたまらなかった。
ドラクエっておもしろい!って思っていた私だったが、その当時私の家にはワープロがあった。まだPCが家庭にない時代だったので、もっぱらワープロが活躍していた。もともと父が仕事用で使うために買ったものだったが、実際使っているのは兄だった。父が仕事で使う表とかを兄が代わりに作っていた。で、私はそれを横で眺めつつも、これが打てると、なんだか小説家っぽくないかとか、こそこそ考えていた。「モモ」を読んで小説家になる意志を固めていた私だったが、実際のストーリーを考え出すこともしていなかったので、ワープロで小説を打ってみたいとは思っていたが、打てる小説そのものがなかった。
で、どうしたかというと、とっさに思いついたのが、ドラクエだった。そうだ、ドラクエの小説を書こう!きっとこれはおもしろいに違いない、そう思った私はゲームの始めの場面から書き始めた。
王「勇者 クエストよ そなたに剣と500ゴールドを与えよう」
勇者「王様、…」
と、まあ、ほとんどゲームと同じように会話体が続き、ストーリーだってドラクエと同じなのだ。それでもワープロで打ち込んで、紙に印刷すると、おおー!なんか小説っぽい!と、かなり感動をしているのを覚えている。内容はさておき、紙に印刷されると、なんだかそれっぽく見えてしまうのである。しばらく高揚感に酔いしれていると、兄にのぞき見され「何やってるの?」と訊かれ、ちょっと恥ずかしかったが「ドラクエ書いてるんだ」と言った。兄は「ふーん」と、ちょっと呆れ顔で見ていた。まあ確かに兄にとってみれば、何やってんだという話である。しかし私にとっては小説っぽいのを初めて書いた記念すべき作品ではあった。
が、それも長くは続かなかった。なぜなら、書店で「小説ドラゴンクエスト」が既に売られていたからだ。その本を見た時、あっというまに熱が冷めた。なんだ、既にあるじゃん!そう思った瞬間やる気も喪失である。先を越されてしまったら、もうやってる意味ないじゃんと、意外にあっさりと私の小説ドラゴンクエストは幕を閉じたのである。
とはいえ、ドラクエは私にいろんな影響を与えたのは間違いないのであった。
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