第15話 文化祭その1
中学1年の文化祭ではクラスの催しで合唱をやることになった。
合唱といえば、必ず誰かがピアノで伴奏を弾かねばならず、誰かがその役をやらなければならなかった。ということで、伴奏者を決めなくてはいけないこととなり、ピアノを習っている人は挙手してくださいという話になった。
私が手を上げずとも、ピアノを弾くのがうまそうな人がいたので、別にいいかなあと思ったが、しかし友人は私がピアノを習っていることを知っていたので、手を上げないというのは、ちょっとなあと思い、結局挙手した。
上げてみると、三、四人の人が手を上げている。見渡せば、頭が良くて、顔がかわいくて、何をやらせてもそつなくこなすメンバーが揃っていた。げげげっと思った私だが、その一方で間違いなくこの人達が選ばれると頑なに信じていた。
そう、こんな地味で平凡な私が選ばれるはずはないと思っていた。というか、この中から誰かが私がやります!と、率先して言ってくれる人が出てきそうなメンツだった。とりあえず挙手した人が集まり円陣を組んで話し合いがなされたが、私がやりますという人はいなかった。
じゃあ、どうやって決めるんだと思ってると、それではジャンケンで決めましょうという話になった。『ちょっと待て!ジャンケンなんかで決めてしまっていいのか』と私は心の内で思った。こういう場合はピアノの腕前の技量で決めるべきなんじゃないか、そして多数決とかが普通でしょと、ものすごく思ったのだが、誰もそれに異を唱える人はいなかった。もともと、おとなしめだった私は皆の前で意見を言ったりすることのできない性分だった。なので、思っていることはそのまま呑み込み、もう流れに任せるしかなかった。
で、仕方ないのでジャンケンすることになったのである。はあ~、ジャンケンか。でもきっと大丈夫。私が選ばれることはない。そう思ってのぞんだジャンケンだったが、結果はあっというまに決まった。三人がパーを出し、私がグーを出して、すぐさま決まってしまった。あ、ありえん!これは絶対嘘だあーーー。ぎゃあああああああ!自分の中で断末魔が鳴り響き、私はかなり取り乱した。
決まったことが信じられなくて、これからどうしようかと思った。かなり青ざめ、しばらく正気にもどれなかった。絶対嫌なんだが、あの舞台のスポットライトの中で大勢の前で弾くなんて、私には無理だ!ほとんど泣きそうになっていたが、決まらなかった彼女達は無言で自分の席に戻っていった。
結局決まってしまったものはしょうがない。しかし私はクラスメート達に散々愚痴っていた。無理だ無理だ無理だと。
まあ、散々愚痴りつつも、それでも伴奏はしないといけないので、クラスで歌う曲が決まると、早速ピアノの先生にそのことを言い、伴奏用のレッスンをしてもらうことになった。前の話でも書いたが、私はピアノの練習自体が大嫌いだし、すぐに曲の途中でひっかかってしまうし、ちっともスムーズに弾けないときている。伴奏用の曲になったからといって、それ自体は変わらないのだ。とりあえず、練習はしたものの、これっぽっちもうまくはいかなかった。そしてあとはクラスのみんなと合わせる練習である。ひっかかりおっかかりながらも、みんなが合わせてくれたので、なんとかなったが、皆が歌っている最中に曲が止まってしまうことが多々あり、やっぱり私じゃ駄目なんじゃないかと私は思った。
どうみても駄目だったのだが、それでも文化祭はやってくるのである。
当日私は緊張のあまり、青ざめていた。舞台の袖から、私らの順番が来るのを待っている間、心臓がどきどきしまくりでパンクしそうだった。極度の緊張の中、私はひっかかったらどうしようとそればかり考えていた。
そしてついに幕が上がった。まばゆいスポットライトと、舞台からみる客席は黒い穴のように見えた。向こう側には誰もいないように見えたが、それでも私の頭の中は真っ白になり、ピアノに向かう自分が自分じゃないように感じられた。とにかくピアノの席につくと、私は緊張の一瞬とともに弾きはじめたと同時にひっかかったああああ!もともと真っ白だった私の頭の中は更に真っ白になり、自分で何をやっているかさっぱり分からなくなった。それでもみんなが歌い出してしまったので、私は必死に弾き直しながら、ついていくしかなかった。かあーっと体が熱くなり、恥ずかしさで私の心はいっぱいだった。ほとんど泣きそうになりながらも、なんとか終えると、私は舞台の袖で愚痴った。
「だからやっぱり私じゃ駄目だったんだ」と愚痴愚痴言っていると、友人の一人が一言「そんなに悪い出来じゃなかったよ」と言ってくれた。ほとんど泣きそうだった私は、とりあえずその一言で、救われた。
ほんとに悪くなかったかどうかは分からないが、今となってはいい思い出である。しかしジャンケンは正直トラウマである。何か重大なことを決める時は、やっぱり多数決が一番である。決してジャンケンで決めるべきじゃないと、つくづく思うのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます