第2話 ミミとの出会い
ミミとの出会いは私が小学校4年の時だ。私の友達の家で仔犬が何匹か産まれたので誰かもらってくれないかという話だった。それでうちの母親と二人で見に行ったら、庭をかけずり回っている仔犬がいた。その当時はミミもデブ犬ではなく、どこにでも見かけるきゃしゃな小さな仔犬だった。ミミはビーグル犬と柴犬の雑種のためか、耳がビーグル犬のようにだらんとしておらず、少しだけたれている耳をしていた。形としては正三角形の頂点を下に向けたような耳をしていた。身体全体は柴犬のような色合いをしており、顔の辺りとお腹の部分だけが、白い毛に覆われていた。
私はかわいいという感情を持ちながらも間近にみる仔犬に正直驚いていた。私よりも小さくてほっそりしたものが、ダッシュで駆けたり、めまぐるしく動き回っているのを見るのは奇妙な感じがした。そして抱きしめると折れてしまうんじゃないかと思った私は遠巻きにその仔犬を見つめるのが精一杯だった。
結局ミミはうちの家が飼うことになった。もし貰い手がないと保健所に連れて行かれてしまうと聞いた母は、もちろんミミがかわいかったこともあるけれど、犬嫌いな父を説きふせ、母、兄、私の賛成により、飼うことが決まったのだった。
家に来たミミは耳の形が変わってるからという理由だけでミミという名前をつけられた。そうしてミミはまだ母犬から離されたせいか、夜中じゅう、くう~、くう~と悲しげな声で鳴き通し、しばらくの間は私達家族の睡眠を妨害していた。しかし日が経つと、ミミも鳴かなくなり、だんだんと私達家族になつくようになっていった。そうしてミミは自分の家族の位置関係を把握するようになった。一番えらいのは、父。次にえらいのは母。そして次は兄、ミミ自身は兄の下ということになり、私はというとミミの下という構図ができあがっているようだった。
おかげで私はミミに散々いたずらされるようになった。リビングのテーブルでお昼を食べていると、ミミが私の靴下をぐいぐい引っ張り、持って行ってしまうことが頻繁に起きた。
「ミミ返してよ」と言って私が追いかけると面白がって部屋の中を駆けずり回り、絶対返そうとしなかった。そんな時ミミはおっぽをぱたぱた振りながら、追いかけっこを楽しんでいるようだった。
ミミからの被害は靴下だけにとどまらない、私がぬいぐるみで遊んでいると、ぬいぐるみを片っ端からかぶりつき、そのままテーブルの下に逃げ込み思うぞんぶんかみつき、ぬいぐるいからは、綿が飛び出し、無惨な姿になって戻ってくることがしばしばあった。そしてテイッシュ箱も大好きで、ミミの届く場所においておくとそれは、あっというまにびりびりに引き裂かれ、テイッシュとテイッシュの箱の残骸だけが山となって残るのだ。とにかく紙が好きなミミは、本に対しても容赦なかった。
まさか本まで被害に合うとは思っていなかった私はお気に入りの岩波少年文庫の『ニールスのふしぎな旅(上)』をそこらへんに置いておいた。気がつくと、ミミが部屋の隅っこで口をぐちゃぐちゃ動かしている。妙に静かだと思った私はミミの様子を見に行くと、ミミの口元には表紙が歯形で切り裂かれた『ニールスのふしぎな旅(上)』のあられもない姿があった。さすがの私もミミの頭をぶん殴って本を取り返したが、その見事なギザギザの形の本を見て、私は泣くにもなけなかった。
とにかくミミのいたずらは限度を知らなかった。そんないたずらっ子に私達は愛称をつけた。ミミではなく、ミミすけ!と。ミミすけと言うと、本当にいたずら好きな子のような気がした。それからは、いたずらをしかけた時のミミを怒る時は、うちの家族はミミすけ!と怒鳴るようになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます