ミミと私と佳作入選

はやぶさ

第1話 肥満犬ミミ

ミミはうちの家で飼っていたビーグル犬と柴犬のミックス犬だ。仔犬の頃はよかったのだが、うちの親が甘いせいか、おやつのケーキや砂糖を与え続け、その結果中型犬にも関わらず、体重20キロの超肥満犬になってしまった。


犬の散歩に出ると、通りがかった人が驚異の目でミミを見て、「妊娠しているんですか」とよく訊かれた。ミミはメスなので、まあ確かに妊娠ということもあるが、うちの犬は避妊手術をしているのでそんなことはありえない。そう訊かれた私は恥ずかしそうにこう言った。「いえ、太っているだけです」そう言うと皆が皆、えっ?!と言う表情を浮かべ、その後にはあららという言葉とともに「まあ、太っちゃったのね」と笑って通りすぎていった。その当時の私は小学生だったのだが、それがものすごく恥ずかしくて、恥ずかしくて正直嫌だった。


もともと小学生の時に「妊娠しているの?」なんて言葉を言われることほど嫌なものはない。おまけに太っているだけなんて言うのも、もっと恥ずかしいのだ。そしてそれとは対照的に私はがりがりにやせていた。皆の目が言っている。子供に栄養がいかずに犬に栄養がいってるんじゃないかと…。そういった見方をされるのもいいものではなかった。それすらもなんだか恥ずかしいのだ。


とりあえず、ミミとの散歩は私においては苦行以外の何物でもなかった。そういった周りからの視線プラス太っているミミの足ののろさ。下手をすると、ずっと座り込みを始めるミミ。夕暮れから暗闇に変わってもミミが動かないことはざらにあった。そんな時はしかたなくよいしょと抱き上げようとするのだが、何しろ20キロだ。上半身だけを抱え込み、足をぷらぷらさせた状態で持ち上げて、ちょっと歩くがあまりの重さに耐えかね、下におろしてしまう。そうしてまた持ち上げて、ちょこっと歩いて家までの距離を縮めていくという苦行が私にはかせられたのだが、しかしとうのミミにとって散歩は大好物だった。


散歩の時間が近づいてくると散歩の「さ」を言うだけで、散歩だと思ってくるんとまるまった茶色のおっぽをちぎれんばかりに振って大喜びして玄関に飛び出して行くのだ。私的には苦行の散歩だったけれども犬にとっては最高のものだったにちがいない。やはりわんちゃんは散歩が大好きなのだ。

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