ハッピーエンド、『い』

コカとリス

第1話 双子の姉妹編

憧れの人に告白するひとりの少女。


妹「ずっと前から好きでした。付き合ってください!」


先輩「気持ちは嬉しいけど、ごめん。」


結果は惨敗。傷ついた少女の心に追い討ちをかけるように憧れの先輩は言葉を続けた。


先輩「俺さ、姉のことが好きなんだ。ごめん、じゃあもう行くわ。」


そうして先輩は去って行った。少女はその場に崩れ、涙を流した。


妹「どうして…?どうして姉なの…。見た目は同じなのに…何が違うっていうの、どうして私じゃダメなの…?」


しかし、いつまでも泣いている訳にはいかない。少女は涙を拭い帰路についた。校門を抜けた頃、ひとりの少女が大声を出しながら駆け寄ってくる。姉だ。


姉「おーい!!一緒に帰ろう!」


妹「あ…うん」


姉「なんか元気ないね」


妹「…そんなことないよ」


姉「いや、絶対変だって!そうだ、久しぶりに彼処へ行こう!」


妹「い、いいけど…」


姉「じゃあ早く行こ~!どっちが早く着くか競争ね、よーいどん!!」


そう言って姉は走り出した。妹も後を追う。


姉妹のいう彼処とは町いちばんの時計塔のこと。時計塔からは町全体を見渡すことができる。辛いとき、悲しいとき、町全体を見渡せば自分たちの悩みなどちっぽけに感じられた。



時計塔に向かう双子。商店街を抜けようとするころ、姉が急に立ち止まる。そこに勢いあまった妹がぶつかった。


妹「痛たた…何で急に止まるの?」


姉「ねぇ、こんなところにこんなお店あったかな?」


妹「なかったと思うけど…新しく出来たのかもね」


姉「中からいい香りがする!行ってみよう!」


姉は妹の手を引きお店に入る。木造で質素ながらも味のある内装、壁に掛けられた大量のアンティーク時計、奥の棚には赤や青、緑に黄色、様々な色の宝石で出来たアクセサリー達が優雅に輝いていた。


姉「これ、きれい…」


姉はその中のひとつのネックレスに心を奪われ、無意識のうちに手を伸ばしていた。


妹「あ!勝手に触ったらダメでしょ!」


妹は姉をたしなめたものの、自分自身もそのネックレスに心を奪われかけていることに気がついた。


しばらくふたりでネックレスに見とれていると店の奥から店主のお姉さんが出てきた。


主「あら、いらっしゃいませ…」


とても美しい女性に姉妹は息を飲んだ。

主人は話しを続ける。


主「お待たせしてごめんなさいね、お詫びに焼き立てのアップルパイでもいかがかしら…」


妹「そんな、待ってな…「はい!」


妹が言い終わる前に姉は元気良く返事をした。


主「もう少し待ってて…」


そう言って主人は再び店の奥へと戻る。


姉「アップルパイだって!ラッキー」


妹「ねぇ、なんか変じゃない…?このお店、出来たばかりにしては古めかしいし、アクセサリーにホコリが被ってる。時計の針もバラバラ…それにあのお姉さん、どこか不思議な感じがする…」


姉「…うーん。妹はなんでも考えすぎ、そんなだから暗いとか言われるの!にしてもこのネックレスきれい…」


妹「…」


店の怪しさに疑いをかける妹、姉はネックレスに見とれている。そこへ主人がアップルパイを持って戻ってきた。


姉「わーい!ありがとうございます!おいしいー!!」


妹「ありがとうございます、いただきます。…おいしいです!」


主「それは良かったわ…」


あまりのアップルパイの美味しさに疑いも一瞬で忘れ、辺りに和やかな空気が流れる。


主「そういえばあなた、何か悲しいことでもあったんじゃない…?」


主人がそう言ったことで、その場の空気が変わる。


姉「そうだった!話してみてよ」


妹「で、でも…」


姉は妹が悩んでいることをすっかり忘れていたようだ。妹は話すことをためらった。


主「話を聞いてもらうだけでも気持ちは落ち着くわ…?」


姉「そうよ!いいから早く!!」


妹「じゃ、じゃあ…」


姉に説得され妹は今日のことをすべて話した。先輩にフラれたこと、先輩は姉を好きだったということ…


主「そんなことがあったの…でも偉いじゃない、想いをちゃんと伝えられたなんてね…」


姉「アイツ、見る目がないのね!今度文句言ってやるわ!アンタもあんな馬鹿にフラれて良かったじゃない、付き合ったところで遊ばれるだけだよ!ていうかアイツ私のこと好きなんだ。マジで無理だわ~、キモ~い」


話しただけなのに、気持ちが晴れたような不思議な感覚。姉はともかく主人の言葉に勇気が出た。そして妹のもやもやとした悩みは解決した。


その時、壁にかかったひとつの時計の鐘が鳴り響く。時間は11時30分。


妹「そういえばあの時計たち、みんな時間がバラバラですよね…?」


主「あれはみんな飾りよ、時間は適当なの…。今はだいたい16時半頃ね…」


16時半…時計塔の鐘が鳴るまで時間まであと30分!早く行かないと!!


妹「ではそろそろ行きますね、お代はいくらですか?」


主「そんなのいいわよ、こちらこそ今日はありがとうね…」


妹「じゃあお言葉に甘えて…ありがとうございます!ほら、行くよ。」


姉「…うん」


姉はあのネックレスに後ろ髪を引かれていた。


主「良かったらその子も連れて行ってあげて…その子もあなたが気に入ってるみたい…」


姉「え、いいんですか!やったー!!」


姉はすかさずネックレスを身に付けた。


主「じゃああなたにも何か…そうだわ、その子も双子だったはず…」


姉「もうこんな時間!お姉さんありがとう!!またくるねー」


主人が言い終わる前に姉は時間を思い出し、妹の腕を掴んで時計塔へと走りだした。


主「あらあら、楽しい子達。またいらっしゃい…」


主人はほほえみ手を振った。


?「お前も相変わらずだなぁ」


主「これが私のお仕事ですわ。それに貴方も楽しそうじゃない…」


?「zzz…」


主「また寝ちゃいましたか…そうだわ、あの子をさがしておきましょう…」


そう言って主人は店の奥へと戻っていった。



16時50分、双子の姉妹は時計塔に登っていた。


妹「間に合って良かった」


姉「そうね」


時計塔から町全体が見渡せる。夕暮れの真っ赤な太陽に照らされ町はキラキラと輝く。少女は覚悟を決め、姉に語りかける。


妹「迷ったりつらい事があればいつもここね、ふたりはこれからもずっとこうだと思う?」


姉「そうね。ふたりはいつまでも一緒だよ」


妹の問いに、姉は即答した。


妹「残念ハズレね、そんなことはないの。」


姉「え、どういうこと?」


妹の予想外の答えを姉は理解できない。


妹「だって、ここで私は死ぬんだもの」


妹の言葉の意味を理解した時、姉は妹を止めようと必死になった。


姉「待ちなさい!どういうこと?今まで一緒に頑張ってきたじゃない、いつも支え合ってきたじゃない!これからもそうやって頑張ろうよ!私達姉妹にならきっと出来る!!越えられない壁なんてないよ!!だからそんなそんな悲しいこと言わないで!!!」


しかし妹の覚悟は揺るがない


妹「さよなら、私、、、」



17時ちょうど、時計塔の鐘が鳴り響き少女達の声をかき消した。



17時10分、そこには少女の眠る姿と、同じ姿の少女が泣き叫ぶ姿があった。


続く

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