本と集中力って大事

寛くろつぐ

本と集中力って大事

 ・・・

 皆聞いてくれよ、凄いことが起こったんだ、本っとに凄いことが。

 まず言っておきたいのが、皆も知ってる通り皆集中力が無い。それはとりもなおさず「DAREKA」のせいだ。あーごめん、おかげって言っておこうか。

 正式名称DirectingAt・・・あー面倒だな。こういう横文字は俺苦手なんだよ。横文字に関しては集中力続かないんだよ。

 まあ要はロボットだな。頼めば何でもしてくれるどころか頼まれなくても何でもしてくれる。詳細は省くが文字通り「誰か」の代わりになってくれてる訳だ。便利な世の中になったよなあ。


 で、それは皆分かってるよな?おーよしよし。欲しいところで頷く反応が出来る分には良く聞いてくれてるな。嬉しいよ。

 いつまでその集中力が続くか分からないからさっさと進めるぞ?


 その「DAREKA」のおかげで皆集中力が無くなった。集中せずとも何でも手に入るんだ、当たり前だ。

 別にそのこと自体は俺は否定しないんだけどな?便利最高だし。集中力無くなったおかげで俺の書くショートショートショートは短くて読みやすいと評判だ。知ってる?俺のこと。あー、知らないか。顔写真のっけてなかったしなあ。まあとにかく、うはうはしたよ、こんなことにしか集中力が続かない俺でも。


 でもな、やっぱり飽きるんだなこれが。集中力無いから。皆も飽き性だろ?テレビが点いたり消えたり点いたり消えたりするのは俺も同じだ。

 で、飽きたから何か他の刺激が欲しくなるわけよ。

 そんでまー自分から「行動」ってほどの何かをするのは面倒だし?飽きるし?

 何か起きねーかなーと思ってうだうだうだうだしてたわけ。


 するとどーよ。もう本と凄いことが起こったんだよ。


 皆「本」は知ってるよな?お?今まで寝てたのに食いついたな。そうか君は「本」に興味がある子なんだな?「本」に集中できる子なんだな?

 良いだろう集中してくれた君にはとっておきの裏話を聞かせてあげよう。

 「本」とは昔、「読むもの」だったんだ。

 あ、さすがにそこまでは知らなかったか。そうなんだ。「本」とは読むものだったんだよ。読むものといえば小説だけど、あれも昔はもっと長いものがあって、実はこの「本」に書かれていたんだ。

 ふふふ、そのうんざりした顔。好きだなあ。めったに見れない顔だからね。まあそもそも人の生顔見るのが稀だけど。

 その顔の通りうんざりするほど長い小説もあった。ところが「小説」と言えば今はこの紙切れ一枚に書かれた物語の事を指す。時代の流れって不思議だよね。


 話を戻そう。今現在「本」とは「読むもの」ではなく「見るもの」。まあ所謂アートブックってやつだよね。芸術は好きだよ?俺も。こうたまーに適当なページを開いては「この人こんなのも描いてるんだ」って楽しむよね。俺はねえ、抽象画が好き。一個の点だけの絵とか、凄い好き。何か深読みしちゃうよね。


 おっと脱線、更に話を戻そう。面白いねえ脱線するたびにこう、皆の集中できるものが何なのか分かっていくねえ。

 この間面白い本が配布された。タイトルは『読んで』だ。不思議だよね、本は見るものなのに「読んで」だなんて。深読みしすぎてゾクゾクするね。え?しないかな?

 中身は俺の大好きな抽象画。使われている色は黒一色で、ほぼ線だけで表現されている。ページをめくったら片仮名の「ナ」みたいなのとか「ク」みたいなのとか「ト」みたいなのとか伸ばし棒とか点とか色々。黒だけど色々。超俺好み。また書かれてる場所も絶妙だよね。絶妙な位置に配置されてるよね。

 で、何だこれはと深読みする人も案の定出てきたわけ。俺みたいな人が結構いたんだなあと、嬉しかったよ。ちょっとした刺激だったよその論争は。


 「この線は紙の端まで延びているから、この延長線上に何かあるんだ」とか、「見開きの両ページに漢数字で『一』と書いてあるからこれは『二』を表す」「いやこれは顔文字だ」「いいや記号だ。マイナスとマイナスでプラスになるって事だ」とか。面白かったなあ。


 でもこれにも飽きてきた。同じようなことしか言われなくなったんだよ。

 「これは生と死の対比である」とか、「神のお告げをそのまま表したのだ」とか。


 で、つまんねーとか思ってたら、とんでもないことが起きた。

 その本が、破られたんだ。一人の少年によって。

 ・・・まあ、良くある事だよ?皆飽きたら小説でも何でも破いたり食べちゃったりするもんね。しない?まあでも、破壊衝動に駆り立てられることは多いよね。


 そこから先は、もしかすると知っている人も居るかもしれない。いや、本当は皆知ってるはずなんだ。分かるはずなんだ。勘の良い人は、この時点でピンと来るんじゃないかな?もっと勘の良い人は最初から・・・?いや、もうDAREKAさんのおかげで大分勘も鈍ってるとは思うんだけど。


 その少年はね、集中力が切れて破いた訳じゃないんだ。確固たる集中力を持ってその本を破いたんだ。これはおかしなことだよね。「読んで」って書いてあるのに破いちゃうんだよその子。

 そんなにタイトル詐欺が気に食わなかったのかな?いいや違うんだ。


 その子はタイトルの意味が分かったんだよ。


 深読みしてくれたんだ。見るものである「本」を、「読んで」・・・読めないはずの本を、どうしたら「読んで」いくことが出来るのか・・・

 考えてくれたんだろうね。普通なら1秒で考えるのを止める所だけど、え?もっと早い?・・・普通なら1秒も考えないけど、子供は集中力が凄いって言うしね。

 もしくは、1秒以内にひらめいたのかな。


 破いた本を、どうしたか。

 繋ぎ合わせたんだ。一枚一枚。


 実はその子は破いたんじゃなくて切ったんだ。本を紙一枚一枚、綺麗に切り取ったんだ。

 そして、端まで延びた線と線を繋ぐように引っ付けた。そうしていくと、どうなったと思う?

 ・・・あちゃー、もう寝ちゃってる人も居るなあ。まあ、ここまで聞いてくれる人自体稀だと思うし、うん良しとしよう。

 

 どうなったと思う?なんとその線と線が繋がって、文字になっていくのが分かったんだ。繋げ換えたり、回転させたり、あらゆる試行錯誤を繰り返しながら、その少年は線を文字にしていって、文字を文章にしていったんだよ。


 そしたらどうなった。一文字は馬鹿でかい風呂敷のようになり、文章はどこまで続くか分からないカーペットのようになった。

 お、いいねいいね。何だか食いついた人が増えてきたように感じてきたぞ?


 少年は、本を見て汲み取った意図から繋ぎ合わせた文章からまた更に意図を汲み取った。製作者の望みを、願いを。

 そして、普段一度も開ける必要の無かった扉を開けたんだ。そこにはどんな景色が広がっていたと思う?そうだ何てこと無い、普通の住宅街だ。本やテレビで見たことある、普通の。だけど違うんだなこれが。


 少年には集中力があった。「読んで」から始まる一連の行動を行い、成し遂げるだけの。その集中力を持った目には、景色はどう映っただろうね?

 いや俺は分からないよ?家から出たこと無いからね。


 感動覚めやらぬ(ああここは俺の願望さ)少年はその長ーいカーペットを敷いていったんだ。少年の家から、ずーっと、ずーっと先。

 歩きながら敷きながら少年は、沢山の家を見てきた。家はどれも立派だったけど、どこも静かだったんだ。そりゃそうだ。皆家の中で好きなことを集中しながら飽きながら、それでも人と関わるのが嫌で面倒で飽き飽きだったから外からは何も分からない様になってる。もっとも外へ出る人もほとんどいないけれどね。


 でも一つだけ、他の家とは違う奇抜でぶきっちょでおかしな家が建っていた。抽象芸術家が建てたならちょうどそんな家だっただろう、という風な、ね。

 少年は、目的地はそこに違いないと思いドアを開けた。そこでノックをしなかったのはまあ許してあげようじゃないか。

 そこに立っていたのはどんな奴だったと思う?


 ちょうど俺好みの、抽象芸術家みたいな奇抜な風貌だったんだ。ぶきっちょでおかしくて、でも面白い、そんな奴が立っていた。そう、それが何を隠そう」

「お前だって言うんでしょ」

「ちょちょっと!それ俺が言わなきゃ駄目なところ!」

「もう飽きちゃったよ」

「そうだそうだ」

「長くてつまんない」

「面白くはあったよ、面白くは」

「そうだそうだ」

「でもこいつは面白くない」

「ちょちょちょっとっと!もう何だよ今まで黙って聞いてくれてたと思ったら!好き放題言いたい放題!あーもう分かった!分かりきってるとは思うがネタ晴らしだ!その抽象芸術家みたいな奇抜でぶきっちょでおかしくて面白くて面白くない奴と呼ばれてもめげなかったのが何を隠そうこの俺だ!そしてその「本」を読んでくれた少年というのが君たちだ!もうほんとありがとう!よくここまで来てくれた!もう本と凄いよ君たちの集中力は!俺も本と集中力は凄いけどな!」

「いや全然凄く無いし」

「なんだと!じゃあ今まで敷いてきたカーペットの文章を思い出して言ってごらんよ!」

「よめ「あか「れも「けてく「くれて「ない本「うだそうだ「りが

「覚えてないじゃないか!ふん!やはり俺の方が凄い」

「いや全然凄く無いし」

「だって外に出たこと無いんでしょ」

「なっ、君たちだって出たこと無いじゃないか俺があの本を書かなきゃ!」

「じゃあお前も出ろよ」

「てゆーかお前がまず言えよ文章」

「そうだそうだ」

「製作者なら覚えてて当然だろ」

「そうだそうだ」

「絶対『そうだ』しか言ってないやついる・・・!え、えーとだな、俺は作るので集中力を使い果たしたからな」

「汚い。じゃあお前も一度俺んちにこい」

「俺んちにも「俺んとこにも「俺も「俺も

「あ、あれ・・・?急に涙が・・・そうか、俺はただ寂しくて皆に会いたくてでも扉を開ける勇気が無ごほごほごほ」

「俺も「俺のところだ「俺の「いいや俺の「俺を「俺「オレオ

「ごほごほ何だ埃か・・・じゃないよ!分かった行くから!押さないで駆けないで喋らないで埃出さないで!行って何度も読み直そう!俺の書いた文章を!読めないはずの本を読みに行こう!」

「もう本じゃねーよ」

「何だここは・・・!奇抜でぶきっちょでぼろくて安そうで埃まみれでごみまみれの家があっただなんて・・・!」

「その口の悪さと背の高さは・・・大人だな!大人も俺の家に来るだなんて・・・大人の集中力も捨てたもんじゃないな・・・」

「まあ、一応お前もな」


『読めない本を読んでくれてありがとう

 開かずの扉を開けてくれてありがとう

 誰も来ない家に来てくれてありがとう

 俺の長い話を聞いてくれてありがとう

 俺に話しかけてきてくれてありがとう

 俺を君の家に呼んでくれてありがとう

 子供も大人も皆来てくれてありがとう

 ・・・

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