四章 俺とあなたと神様と

「それで私が起きたら既にアップデートも完了していて、尚且つ転生まで終わってしまっていたの」

 な・・・なるほど?

 イマイチわからないところはあるが一度置いておこう。

 まず話を聞く限りでいくとどう考えてもバル爺が悪い。いきなり転生の呪文とか言い出したのも色々問題ではあるけど、運営に指示されたからやったこと。むしろバル爺がその作業をしていたことがおかしい。

「何でバル爺はマリアを転生させようと考えたんだろうね」

「わかっていたら苦労なんてしないわよ!どうせ気まぐれよ、気まぐれ!!」

 マリアはバル爺に対する怒りで思わず立ち上がる。俺はそれに驚いて表情が硬くなった。

 いつもなら(悪魔の)微笑みで課金コンテニューへの道を説くか、タイトル画面でゲームの顔らしく可愛く「イクリプス・パージ!!」とよくRPG(ロール・プレイング・ゲーム)でありがちな台詞を言うだけなのに。

 こんなに荒ぶる嫁の表情は見たことがない。夫以外に見せない表情。つまり夫である俺だからこそ見せてくれるというプレミア感。それがどんな暴言でも、どんな罵声であろうと夫にだけそれを見せてくれるのならば、僕は喜んでご褒美として受け入れようではないか。

 何がともあれ、大体の状況は掴むことができた。それだけでも進歩ありだ。

「とりあえずご飯にしようか」

 俺が振り向いた先の時計は午後1時を指していた。

 そろそろ嫁も空腹だろうと思ったので何か作ってやろうと思ったのだ。(別にご飯を作ってあげることにより、嫁の夫に対するポイントをあげようとかそんな不純な考えはしていない。決してそんなこと思ってなん・・か)

「大丈夫よ。あなたのチェスト(IPで持ち物を保管できるアイテム)から、いつものように適当に食料もらうから」

 そう言うとマリアは部屋の中からチェストを探しているかのような素振りを見せる。俺はその光景を見ながら、さっきマリアの言った言葉を思い出していたのだった。

 数分ほど部屋を徘徊した後に、ひとつの紛れもない真実にたどり着いた。

 マリアは驚きながら俺の元に寄ってくる。そして顔があと数センチで接触するほど近くに寄ってくる。もう理性を抑えきれない。そう思った瞬間だった。

「何で部屋にチェストがないのよ!バグなの?バグってるの!?なんなの!?」

 それを聞いて何かが切れたような音がした。

「そりゃここにチェストがあるわけないだろ!まずここは三次元!マリアが話しているのは二次元の話だろ!?三次元と二次元はちが・・・」

 俺はここでひとつのあやまちに気がついた。ここで三次元と二次元は違うと言い切ってしまうと、今三次元に存在している二次元のマリアの存在を真っ向から全否定することになってしまう。ということはマリア目線でいくと、自分は二次元で夫である俺は三次元。つまり嫁のマリアが夫である俺の存在を真っ向から全否定してしまうことになりうる。

「あああああああああああああ!!!!!!!!!!」

 発狂する夫。

「ああ!もう!何なのよあなた!!」

 騒ぐ嫁。

 こんなカオス空間が存在していていいのだろうか。

 俺はこんな状況下の中で、今の流れとは違うことを考えていた。

 ついに夫である俺は、嫁であるマリアに『あなた』呼んでもらうことに二度も成功したのだ。

 長年の夢、俺はとうとう叶えることに成功したのだ。ああ、これほどまでに生きていて良かったと神様に感謝することなどないだろう。


「あああああああ!!二次嫁最高おおおおおおおおお!!!!!!!!」

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俺の望んでいた嫁はこんなのじゃない!! 霧島 菜月 @yuto1217

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