三章 鍛冶屋のおじさんと転生と
※
時間を遡り、浩司が謎のコードを打ち込む一週間前のゲーム内ではプレイヤーの知ることのないやり取りが行われていた。
「ふぁぁ。やっと私の出番終わったぁ。やっと休めるわね」
マリアは背伸びをして自室へと歩いて帰っていた。プレイヤーは絶対知ることはないが、アプリを落とした瞬間からゲーム内のキャラクターは非番となってのんびりと休んでいる。
日々ボスキャラとしてプレイヤーと戦い負けなければならないキャラクターは、毎日のようにテーブルを囲んで愚痴を零しながらラーメンを食べている。
その日は日曜日だったため学校は休み。浩司の相手を一日中していた。
肩を叩きながら自室へと戻る最中にふと暗い部屋から奇妙な声が聴こえてくる。マリアは少し諦め半分にドアを開いた。
「何やってんのバル爺。気持ち悪いからその声やめてくれない?耳が壊れそうなのよ」
ぴくりと反応したバルダ(バル爺のキャラ名)はクルリと大きなイスをそちらに回転させる。
「お!その匂いはマリちゃんじゃな!?」
見た目は完全鍛冶屋のおじさん。古臭い格好に腹巻に白いタオルをグルグルにして頭に括りつけている。
「匂いで判断しないでよ。ほんと気持ち悪いジジイね」
マリアはゆっくりとドアを閉める。
「今可愛らしいヒロインから聞こえちゃいけない言葉が聞こえたのは気の所為じゃな。うむ、そうに違いない」
そう言いながらまたパソコンのキーボードに手元を動かした。
「さっきから何やってるのよ。て、何この画面、文字が羅列しすぎて怖いのだけど」
「おお、これのことかの?これは今度のアップデートのあとに抽選で一人だけ呪文打ち込みで、クエストをやり直せるというものを作っているのじゃ」
「あぁ。今人間界でいう運営というのに命令されてるのね。可哀想なバル爺。同情はしないけどね」
うむ。とバル爺が頷く。
「それでじゃの。流石に運営の命令を聞くのに飽きてきたところじゃった。ということでまず当てられることはないと思うのじゃが、三次元に転生することが出来る呪文をついでに打ち込んでいるところじゃ」
「へー、転生ねー。……え?転生??」
マリアは呆然とバル爺を見つめる。
「大丈夫じゃよ。転生の呪文を一文字も間違えずに打ち込むなど不可能じゃからの。転生する可能性がある理由なかろう」
「何故なのかしら。フラグにしか聞こえないわ」
「まあまあ。次回のアップデートは六日後の朝正午から八時間じゃ。楽しみにしてみようではないか。マリちゃんも楽しみにしておくがいいぞ」
「はぁ……」
マリアは呆れたように無言でドアから出て行き自室へと戻った。
ドアを締めるとそのまま一直線でベッドへ倒れ込み、側にあった枕を抱きしめた。
「人間の世界、か…」
その後マリアはその場で寝落ちた。
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