第7話 ワラジムシ

 飼育法はダンゴムシに準ずる。

 これで終わりである。なにしろ、野外でもオカダンゴムシとほぼ同じ場所に見られるのであるから、作り出すべき飼育環境も似通っていて当然だ。

 しかも、最も普通に見られる三種、ワラジムシ、ホソワラジムシ、クマワラジムシの三種はヨーロッパなどからの外来種で、そんなところまでダンゴムシと同じなのだ。

 餌も繁殖法もほとんど同じだが、飼ってみると、わずかにダンゴムシより乾燥に弱いように思う。とはいえ、上記三種はそれぞれ湿度で棲み分けてでもいるのか、好む湿度が微妙に違っていて面白い。

 だから、飼うのにはダンゴムシよりは気を使う……といっても、手間は大したことはない。

 しかし飼ってみて面白いか、と言われると、ダンゴムシより面白いとは言えない。

 丸まらないし、体が柔らかくて触ると潰れそうなのがよくない。少し足が速いのも、可愛さを半減させる要素の一つだ。

 しかも素早いとはいえ、目にも止まらぬというほどでもなく、飼育する分を捕まえるのに苦労はしない。という、何ともやきもきさせる素早さだ。

 どうもダンゴムシと違って体が柔らかいせいで、逃げ隠れする必要がある、ということらしい。ワラジムシに比べると、ダンゴムシはやはり堂々としていて貫禄がある。

 乾燥に弱いと書いたが、それ以外の面でもわずかずつダンゴムシに劣るのであろう。場所にもよるが、日本の石の下の多くはダンゴムシに占領されていて、ワラジムシは肩身が狭そうに、ひしめいている。

 しかも、ビジュアル的にさして可愛くないのがとどめだ。つまり、あまりペット向きではないのである。


 ところが、ワラジムシの飼育は、ダンゴムシより活発な需要がある。

 こんなもの、どうしてわざわざ飼うのかと言えば、実は餌用なのだ。カエルやサンショウウオ飼育の、絶好の活き餌となる生物なのである。

 皆さんご存じの通り、カエルやサンショウウオは生きて動くモノしか食べない。

 だから、活き餌が基本であり、それが入手できない時には肉片や死んだ虫をピンセットなどでつまみ、目の前で動かしてなんとか食いつかせるしかない。

 しかし、これが非常にめんどくさく、しかも食い付きが悪いので、活き餌なしの彼等の飼育は、実に実に実に苦労する。


「じゃあ、カエルなんか飼わなければいいじゃないか」


 と思われるかも知れない。

 まことにその通りであり、そんなことを企むのは一部の変態でしかないのだが、世の中にはそういう変態マニアたちが少数ではあるが存在して、様々な活き餌がネットや店頭で販売されている。

 コメノチャイロゴミムシダマシの幼虫、ミールワームを筆頭に、ジャイアントミールワーム、イトミミズ、ユスリカ幼虫(アカムシ)、ハチノスツヅリガ幼虫(ハニーワーム)、カイコガ幼虫(シルクワーム)、フタホシコオロギ、ヨーロッパイエコオロギ、ハツカネズミ、ヒメダカ、金魚など、生きたまま、餌用に販売されている生物は様々だ。

 これらを購入し、与える生物によって使い分け、捕食シーンを楽しむ……日本、いや世界中にそういう連中が相当数いるから、そういった商売も成り立つのだ。

 むろん、俺もその変態の一人であるわけだが。


 さて、それでどうしてワラジムシなのかと言えば、中・小型のカエルやサンショウウオに適した餌、というのがなかなかないのだ。

 ショウジョウバエを飛べないように改良したものもよく使われるが、小さすぎたり、すぐに死んでしまったり、壁を登ってしまって届かなかったりする。

 小さなコオロギは、手でつまむと死んでしまったり、飛び跳ねていなくなってしまったり、少し大きくなると両生類に反撃して噛み付いたりもする。

 だが、ワラジムシはそういった問題点がない。

 飛ばないし鳴かないし噛み付かないし壁も登らない。更に甲殻類なので昆虫などに比べてカルシウム含有率が高い。栄養バランスにも優れているのだ。しかも、もともと石の下に住むようなサンショウウオやカエルにとっては、野生下で食べているものだし、そうでなくとも動きが近いようで、非常に反応が良く、上手く捕食できる。

 ダンゴムシも同様の特徴を持つが、非常に固いので、食いついても吐き出すことも多々ある。

 両生類飼育には、まさにこれ以上ないほど良い餌なのである。

 そんなわけで、変態諸兄は、両生類を入手する前にワラジムシをコンスタントに飼う技術を身につけることをお勧めしたい。


 飼う場合にまず気をつけたいのは、ダンゴムシと一緒に飼わないことだろう。なんだか分からないが、ごちゃ混ぜに飼っていると、次第にダンゴムシの割合が増えていく傾向にあるからだ。

 これは、俺の飼育ケースに特有の現象なのかも知れないが、なったのは事実。

 それと、ムカデやハサミムシ、オオハリアリなどの捕食者にも気をつけたい。コイツらはプラケにも平気で生息してワラジムシを食う。

 だが、そういうことさえなければ、ダンゴムシ同様、子供を産み落としては勝手にじわじわ殖えていく。

 また餌もダンゴムシと同じで落ち葉や朽ち木などの腐植質を食うので、特に餌を与える必要もないが、野菜クズなども食う。そんでけっこう殖えたな、と感じたら、隠れ家にしている落ち葉や朽ち木ごと、サンショウウオやカエルのケージに入れておけばいいわけだ。

 カエルやサンショウウオは、動き回るワラジムシを勝手に食う。

 だが、ワラジムシの殖えるスピードはさほど速いわけではないから、効率は悪い。たった数匹のカスミサンショウウオを飼うために、俺がワラジムシを飼育していた容器は、大型衣装ケースだった。

 ほとんど落ち葉と生ゴミだけでサンショウウオを飼っていたわけで、餌代はゼロ。

 そう考えると実に経済的な餌だが、ただでさえ狭い飼育スペースのほとんどがワラジムシで占められる状態は看過しがたく、結局、ミールワームなどに変更した。

 だが、変更直後にサンショウウオもパタパタと死んだから、ワラジムシのままにしておけばよかったと、いまだに後悔している。

 しかもその後、衣装ケースは残っていたのだが、放り込んだ鉢土からワラジムシは復活した。サンショウウオのいなくなった今も、ワラジムシだけが殖え続けているのは、実に皮肉な事態である。


 まったく関係ないが、書きとめているネタの一つに、「土壌戦士ダンゴム」というのがある。内容はこうだ。

 超未来の地球。

巨大化した植物に地表は覆われている。その巨木の林に住む人類は、日光の届かない林床で生活しているのだ。

そして、増えすぎた一部人口を植民と称して樹上に追いやってしまうところから物語は始まる。

 樹上は、巨大化した昆虫たちが支配する弱肉強食の世界であった。樹上人・ウッドノイドは大変な苦労を強いられながらも、樹上に文明を築いていく。そして巨大昆虫を使役し、乗りこなすことに成功した樹上人たちは、地上へ帰るべく、戦争を仕掛けてくるのだ。

コロニー落とし」と称して、巨大スズメバチの巣を地面に落とし、甚大な被害を地上に与える。

 なんとか昆虫操作技術を盗んだものの、樹上と比べて大した昆虫などいない地面連邦は、土壌動物である巨大ダンゴムシを操作し、起死回生の兵器『ダンゴム』として投入する、というストーリー。

 そして、その改造ダンゴムシ『ダンゴム』の量産型こそが、ワラジムシ兵器『ワラジム』である。

 ワラジムは、初期型ワラジムから派生して、樹上戦型ワラジム、ワラジムⅡ、ワラジムスナイパー、ワラジムライトアーマー、ワラジムカスタムなどに派生していき、地面連邦の主力兵器になっていく。

 ちなみに地面を上手く走れる昆虫が少なかったため、土壌侵略のために、ウッドノイドが開発したのが『ゲジ』。

 これも『旧ゲジ』から派生して『ゲジⅠ』『ゲジⅡ』『アクトゲジ』『ハイゲッジ』『ゲジ・マリンタイプ』『ゲジⅢ』などへと進化を遂げる。

 こうした某ヲタにしか分からないネタをちりばめつつ、偶然ダンゴムに乗ることとなった主人公・イレ=ムロアが、少しずつ人間として成長していくストーリー。

 うまく続くと「ダンゴムZ」「ダンゴムZZ」「Vダンゴム」「ダンゴムSEED」「土壌武闘伝Gダンゴム」などと続編も書ける予定だったが、プロットとプロローグで力尽きて、本編は書き始めてすらいない。

 なにしろ、よちよち歩き回る土壌動物同士の戦いだ。

 スピード感まるでなし。しかも、お互いに牙も爪も毒もない連中同士。

 そもそも戦争になりようがない。こういう出落ちだけだと短編にしかならないしなあ。


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