憧憬 097
97 来ぬ人を 松帆の浦の 夕なぎに 焼くや藻塩の 身もこがれつつ
こぬひとを まつほのうらの ゆ
【カテゴリ】女子悲恋
【タグ】男性 貴族 鎌倉 新勅撰集 恋
【超訳】焦がれているの。
どんなにお待ちしても、あなたがいらっしゃることはないことはわかっています。それでもあなたに焦がれています。憧れているのです。恋をしているのです。
【詠み人】
藤原定家。藤原俊成(83)の子。『小倉百人一首』の撰者。「新古今集」「新勅撰集」の撰者も務める。
【決まり字】こぬ(2)
【雑感】この小倉百人一首の撰者です。99首まで選んで、最後に自分の和歌の中からこの歌を選んだそうです。女性の立場で詠んだ歌です。夕暮れの浜辺で焼かれている藻塩のように私の心も恋い焦がれているのよ。夕暮れというのがなんともロマンチック。暖色の夕景に塩を焼く炎、恋の炎も紅く燃えて……、焦げそうになっていますか?
ただ、定家サン、
ということは交際を禁じられている式子内親王さまのことを定家サンもお好きだった? のかしら? 業平サンの真似して? 業平サンが800年代の方。定家サンが1200年ごろの方なので、ざっくり400年ほど昔の方に憧れて、自分もそんな風になってみたいと妄想していたということでしょうか。本当に好きになったらまだしも、シチュエーションに憧れただけで恋して、内親王さまの気持ちを自分に向けさせたとなったら、果たしてそれはどうなんだろう。内親王さまは「この想いが知られてしまうくらいなら、いっそ死んでしまいたいわ」とまで詠んでいるのですよ? 許されない関係とはいえ、そこは誠実に始まっていてほしいなぁと思います。
このお歌はどなたの立場に立って詠んだお歌なのかしら? 女性一般の気持ちを代表してのこと? それとも特定のどなたか? 願わくは、内親王さまの気持ちに立って詠んだお歌で、僕もあなたと同じく恋い焦がれているんだよ、憧れているのはあなたなんだよ、との気持ちがこもっていてほしいなぁと思います。
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