5 鎌倉時代( 1192 ~ ) 

幸せってそういうこと          093

93 世の中は 常にもがもな 渚こぐ あまの小舟の 綱手かなしも

 よのなかは つねにもがもな なぎさこぐ あまのぶねの つなでかなしも


【カテゴリ】人生、時代

【タグ】男性 貴族 鎌倉 新勅撰集


【超訳】そうは思わない? 

この光景だけは何があっても変わらないでいてほしいもんだよね。漁に出ようとして小舟の綱を引いているこの光景はなんともいいもんだと思わない?


【詠み人】鎌倉右大臣

実朝さねとも。源頼朝と北条政子の次男。鎌倉幕府三代将軍。和歌は藤原定家に師事。


【決まり字】よのなかは(5)


【雑感】和歌番号は時代順に並んでいます。1番の天智天皇は大化の改新の頃の600年代中盤の歌でした。そこからおよそ550年の月日が流れ、この歌のあたりで1200年あたり。鎌倉時代となりました。歌の舞台も関東へと移りました。

 この方は鎌倉幕府を興した源頼朝の息子で鎌倉幕府第三代将軍。けれども、政争にまきこまれ暗殺されてしまいます。

 鎌倉の近くの海辺で、漁師さんが漁に出かけるのに、舟につながっている綱を引いて沖に出ようとしている。ただそれだけのことだけれど、穏やかな生活の中でしか味わえない光景なのだなぁと、庶民の暮らしぶりを眺めながら将軍様は思われました。


 「かなし」は「哀し」であり、「愛し」でもあるそうです。なにげない日常の風景は愛おしいものだけれど、戦乱の世ではいつそれが絶えてしまうかわからない哀しさもある。そういう光景に実朝は心を動かされて詠んだ歌です。

 特別「ハレの日」でもない毎日が実は本当に幸せな日なんだと、普段忘れがちですけれど、ときどき思い直してみるのもいいことですよね。ごはんが美味しく食べられる、それさえ感じることができれば人生悪いもんじゃない。

 穏やかな日々を愛おしむ将軍が後に暗殺されてしまうことを思うと胸がしめつけられます。戦乱の世を経て今、令和の鎌倉の海を眺めていらっしゃらないかしら。

 

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