愛妻家                 091

91 きりぎりす なくや霜夜の さむしろに 衣かたしき 独りかも寝む

 きりぎりす なくやしもよの さむしろに ころもかたしき ひとりかもね


【カテゴリ】秋

【タグ】男性 貴族 平安後期 新古今集


【超訳】これ以上の寂しさはないね。

こうろぎは鳴くわ、霜が降りてきて寒いわ、布団は一人分だわ、キミを亡くして何を見ても、何を聞いても寂しすぎるんだよ。


【詠み人】後京極摂政前太政大臣ごきょうごくせっしょうさきのだじょうだいじん

藤原忠道(76)の孫で九条家を興した九条兼実かねざねの子。


【決まり字】きり(2)


【雑感】歌でいうきりぎりすは、今のこおろぎのことだそうです。それから、愛する人と共に寝るときはおたがいの衣の袖を敷くのですが、ひとりで寝るときは自分の袖だけを敷くということらしいです。それが「衣片敷ころもかたしき」。この方、この歌を詠む少し前に最愛の奥様を亡くされたそうです。

 奥様を亡くされて、ただでさえ寂しいのに、おまけに秋までやってきてしまった。うら寂しい象徴の秋が。涼しくなってきて人の温もりも恋しいでしょうにね。こおろぎが鳴くのだって、霜が降りるのだって、自分の分だけの寝具だって、もうすべてが寂しすぎる。

 お気の毒でご同情するばかりだけれど、少しだけホッとしている自分もいます。ここまで90首近く和歌を超訳してきましたが、男子が奥様を想ってせつなくなるお歌なぞあったかしら? 片思いとか失恋・悲恋はありましたけどね。こんな風に旦那様に想ってもらえた奥様は瞳を閉じるときに旦那様を想って旅立たれたかしら? そうであったらいいなぁと思ってしまいました。

 悲恋に分類しましたが、恋に破れた悲しさではなくて恋しい人を亡くした悲しさの歌ですね。ラブラブだったがゆえの悲しさの歌ですよね。

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