めぐり逢いたいのは           057

57 めぐり逢ひて 見しやそれとも わかぬ間に 雲隠れにし 夜半の月かな

 めぐりあて みしやそれとも わかぬまに くもがくれにし よのつきかな


【カテゴリ】人生、時代、友人

【タグ】女性 貴族 平安中期 新古今集 月


【超訳】ほんとに○○ちゃん?

久しぶりに会えたのに、あれじゃほんとに○○ちゃんだったどうかもわからないじゃない? 話もできなかったのよ? 


【詠み人】紫式部

夫と死別後、一条天皇の中宮彰子に仕える。「源氏物語」「紫式部日記」の著者。名前の紫は源氏物語の登場人物である紫の上に由来している。58番の大弐三位だいにのさんみは彼女の娘。



【決まり字】め(1)


【雑感】来ました! 紫式部さま。あの「源氏物語」の作者なのは説明するまでもありませんよね。源氏の中身は知らなくても、源氏と紫式部の名前は大勢の人が知っていることでしょう。

 その恋愛小説の大家の詠んだこの歌。「めぐりあひて~」なんて始まるからてっきり恋の歌だと思っていました。違うんですって。幼馴染の女友達のことだそうです。お友達もお月様もすぐに見えなくなっちゃったからよくわからなかったわ、と詠っているそうです。

 この方こそ、恋の歌がよかったな。あれだけの長編恋愛小説の著者ですよ? 切ない恋心を詠わせたらきっと素晴らしいだろうに。そんな紫式部が「源氏物語」作中で藤壺の宮に詠ませた歌です。


唐人からびとの 袖降ることは 遠けれど 立ち居につけて あはれとは見き

(青海波を中国の人が踊ったのは遠い出来事ですが、私も素晴らしいあなたの舞だけを見つめていました)


 光源氏が宮中で帝をはじめ大勢の前で舞を踊ることになりました。もちろんその中には恋しい藤壺の宮もいらっしゃる。大勢の前ではあるけれど、源氏は藤壺の宮のこと想い、宮のためだけに舞を舞いました。御簾みす越しに見ていた藤壺の宮もあまりの見事さと源氏への想いを自覚して涙を流しました。翌日、源氏は「昨日のあの舞はあなたのためだけに舞いました」と文と和歌を藤壺の宮に贈りました。禁じられた関係だったので、普段は返事をしない藤壺の宮でしたが、このときばかりは上記の歌を贈りました。


 やだ、ホントは宮さまも好きだったんじゃん! 源氏が一方的に好きだ、好きだって盛り上がっているだけだと思ってたら、宮さまも好きだったんじゃん。年上だし、禁断の関係だから自分の気持ちを抑えていたけれど、愛してるんじゃん。でも源氏にすら素直に気持ちを表さずにいた藤壺の宮さま。やっとのことで贈った歌がこれでした。「あはれとは見き」これだけ。たった7文字だけで表した自分の気持ち。泣ける。しみじみ泣ける。


 めぐり逢いたいのは人さまざま。愛しい人。懐かしい友人。優しい家族。それから月もかな。いつも見守ってくれる空に浮かぶ月。めぐり逢いたいと、その人のことを想い、そして願う月。

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