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50　君がため　惜しからざりし　命さへ　長くもがなと　思ひけるかな

　きみがため　を（お）しからざりし　いのちさへ（え）　ながくもがなと　おもひ（い）けるかな

【カテゴリ】男子恋

【タグ】男性　貴族　平安中期　後拾遺集　恋

【超訳】一緒に生きていたい。

あなたに逢えるのなら死んでもいいと思っていたんだよ。でもね、想いが叶うとね、いつまでも生きていたいと思うんだ。あなたと一緒にね。

【詠み人】藤原義孝（ふじわらのよしたか）

謙徳公(45)の子。天然痘で21歳で夭逝。

【決まり字】きみがため　を（６）

【雑感】切ない。切なすぎる。この方、２１歳で亡くなられたそうです。

そもそもその人に逢えるのなら死んでもいいと思えるほどの恋心。それほど恋い焦がれた人と想いが交わせた喜びを味わってしまうと、やっぱり死にたくない、いつまでも生きていたい、と詠いました。

　乏しいワタシの恋愛経験では妄想にも限度があるのですが、死んでもいいと思えるほど相手を想い、焦がれ、そしてようやくその想いを交わした喜びはどんなだったのでしょう。「あなたに逢う」のが最高の望みだったけれど、それが叶ってしまうと、今度は「いつまでもあなたと生きていたい」とより最上の望みが出てきてしまった。

　この歌を詠ったときに死の予感があったのかどうかはわかりませんが、結果若くして亡くなられたとなると、よりこの歌が胸に迫ります。この方もお気の毒でならないけれど、贈られた女性の方もお辛いはず。

　この歌は「後朝（きぬぎぬ）の歌」といって、女性と逢瀬を交わした男性が夜明け前に自宅に戻ってから、女性に贈る和歌です。せめてこの夜と朝は幸せなおふたりだったのかしら、そうでありますように、そうであってください、と何百年も後のワタシが願ってしまいます。