閑話休題① 恋愛事情Part1

 ここまでお読みいただきありがとうございます。

 百人一首なので、当然ですが百の歌があります。このあたりで読んでくださる皆さまも書くワタシも少し休憩。ナナメ読みしてみてください。

現代とは余りにも異なる当時の恋愛、結婚のようすを簡単にまとめてみます。


【一夫多妻】現代との最大の違いですよね。高貴な人々についてまわるお世継ぎ問題を解決するためにもこの制度があったのかなぁとは思います。女は結婚して子供を産まないと、という考えはこのあとずっと続きます。今とは比べものにならないほど女性の生き方が限定されていたんだろうなぁと思います。今だって一夫多妻ではないけれど、女は子供を産むべき、男の子ならなおよし、という考えはそれでも残念ながら残っています。あまり公には言われなくはなりましたけどね。


 当時の男性は一夫多妻制度のもと、女性と付き合い、結婚もします。昨日は妻のAさんのところ、今日は恋人のBちゃんのところ、明日は未亡人のCさんに歌(ラブレター)でも贈ってみようかな、なんて風に女子のところに通います。


 ここで不思議になるのが、女性側。一般的には当時の女性は男性が通ってきてくれるのを待つだけでした。それは結婚してからも。だからあなたを待ち続けるわ、逢いに来て、という歌が詠まれるのはとてもよくわかります。不思議なのは女性にも恋多き方がいらしたということ。しかも女性側からはあちらこちらに出かけてはいかないし、おそらく女性側からふみ(ラブレター)を送るのも、はしたない行為とみなされたと思います。となると、男性が彼や夫のいる女性に恋文を送って通ったということになります。彼とはうまくいかなかったから、次の方と? 一夜限りのアバンチュール? を楽しんだ? もしくは遊ばれちゃっただけ? ただこの時代、下で書くのですけれど、3日連続して通うと婿として認められます。ですので、アバンチュールの場合は1日か2日で通うのをやめるということかしら? こうなると一夫多妻ではなくて、多夫多妻? 現代からはもう想像がつきません。

 百人一首に選ばれている詠み人でも「昔、ありけり」の伊勢物語のモデル説の在原業平朝臣ありわらのなりひらあそん(17)、その業平とも付き合っていた清和天皇妃である藤原高子ふじわらのたかいこ、天皇や親王の子を産んだ伊勢(19)、光源氏のモデル説のある元良親王(20)、大和物語で数々の恋バナが披露される右近(38)、その右近さんから歌を贈られた権中納言敦忠(43)、「和泉式部日記」でご自分の恋バナを綴った和泉式部(56)、恋愛遍歴を重ねていた相模(65)、などが「恋多き」と伝えられています。まあね、「恋多き」だからこそ「恋歌」もたくさん詠まれただろうし、そんな歌で口説いたのだから素敵で秀逸な「恋歌」も多かったのでしょうね。


 ただやはり許されない恋もあったわけで、ケースバイケースってことになるのかしら? 元良親王(20)は帝の妃との密会がバレたときに詠んだ歌ですし、内親王との仲を引き裂かれた左京大夫道雅さきょうのたいふみちまさ(63)の恋も許されない恋だったようです。

 また源氏物語でいうところの源氏と藤壺の宮や女三宮と柏木の恋が「禁じられた恋」ですね。源氏のパターンは帝である実の父の后(自分の母親ではない)との恋です。柏木のパターンは源氏の妻である女三宮(源氏の兄である帝の娘)と若手のホープ柏木中将かしわぎのちゅうじょうとの恋です。二次元だと盛り上がりますけどね。こうした恋って。フィクションの二次元に留めておいて、それを読んで切なくなったりときめいていたりするレベルが一番いいのかなと思ったりします。


 そしてこれだけ恋愛が今より自由となると、男性も女性も結婚がゴールどころではありません。相手のことが好きなら相手にだって好かれたい。結婚したからってダンナは他所へも通っていく。結婚したあとも、自分磨きもしなければ。女子力だって高めないと。男子力も? いっそ、実家の財力でつなぎとめる? 子供を産んだら落ち着く? いつになったら平穏な暮らしはやってくるの? いやはや一生タイヘンそうです。



【通い婚】これもこの時代特有の制度ですよね。何度か文や和歌をやりとりしてお互いいいカンジになったら、男性が女性の元へと通います。夜に訪ねて行って夜明けに帰る。とはいえ、まさか正門からピンポーンと呼び鈴をならして○○ちゃんのとこに遊びに来ました~というわけにもいかない。大きなお屋敷なので、その家の家来(それもお目当ての女性の家来)に協力してもらう。どこそこの裏口から何時にこっそり入ってきてね、私の部屋へは家来が案内するわ、なんていうふうに。家の主人(女性の親など)もなんとなくは把握していて見ぬふりをしている。3日連続して通うのが相手への誠実な想いの証とされて、3日目の夜が明けると、女性側の家から婿として認められます。……、3日でねぇ。どうなんだろ、その制度。


 婿として認められると世間にもお披露目をして、そこのお家で衣食住の面倒を見てもらえるというわけ。というのも当時は親の財産は娘のモノとなったから。男子は女子の元へ通って結婚してその家で面倒を見てもらうことになります。自分が出世してお金持ちになったらお家も建てられますが、若いうちは自宅(親の家)から嫁の家に通うことになります。そこへ一夫多妻なので、複数のお家に通うことが可能になる。「今日はどこへ行こうかな~♪」ってなもんでしょうか? 迎える家としても、娘を大事にして欲しいから下へも置かぬおもてなしを展開。なので通う嫁の家がお金持ちだとまぁ、なおいいな、ということになるのかしら。いくつか別宅があるのも便利だなってこと??? 


 そうしていずれは嫁のお家を相続するか自力でお屋敷を建てて嫁を呼び寄せるか、ということになるようです。で、これまた自分の屋敷に嫁を呼び寄せるにしても、一夫多妻なのでやってくるのがひとりとは限りません。複数の女性を住まわせることも珍しくありませんでした。お金持ちでお屋敷も広かったようなので、女性同士は顔を合わさずに別棟で暮らすようです。で、これまたダンナは「今日はどの部屋に行こうかな~」ってことになるのです。あるいはまだ外にも出かけていく。そして人妻にも恋文がやってくる。「きょうはダンナ来ないからいいわよ(^_-)-☆」なんて知らせたかどうかは知りませんが、そんなこんなで許されない恋も盛り上がる。

 もう、ため息。理解不能。理性とかどうなってるんだろ。感情だって盛り上がったり、落ち込んだりタイヘンそう。駆け引きに駆け引きを重ねて、相手を探って……、本当の自分は誰のことが好きなんだろう。想像しただけで疲れます。忙しすぎる。


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