桜吹雪ならぬ……            024

24 このたびは ぬさもとりあへず 手向山 紅葉のにしき 神のまにまに

 このたびは ぬさもとりあず たむけやま もみじのにしき かみのまにまに


【カテゴリ】秋

【タグ】男性 貴族 平安中期 古今集


【超訳】紅葉吹雪とでもいいましょうか。

いつもの捧げもののかわりにこの手向山の紅葉をまき散らすことにしましょう。神様、どうぞお納めください。


【詠み人】菅家かんけ

菅原道真すがわらのみちざねを尊敬した呼称。宮廷に仕え、右大臣にまで出世するものの、のちに大宰府に左遷され、九州にて没する。京都・北野天満宮に祀られ「学問の神様」と崇められている。


【決まり字】この(2)


【雑感】ぬさとは「幣」と書いて、色とりどりの布や紙きれを旅の安全を願って道祖神どうそしんに捧げるものだそうです。本来はぬさをまき散らすのですが、あまりに紅葉が見事なのでぬさのかわりにこの錦のような紅葉を神様に捧げましょうと詠ったものです。

 学術的には「旅・離別」に分類されるみたいですが、ようやく出てきました。悲しくない秋の歌。秋と言えば紅葉。紅葉と言えば秋。美しい秋の象徴ですよね。山全体が赤や橙のグラデーションに染まって、それを絹織物のようだと例える。着物や帯のような何千もの絹糸で織り上げた布地のような美しさ。くれない、緋色、紅緋べにひ丹色にいろ、朱色、韓紅花からくれない唐紅からくれない、茜色……、日本古来からさまざまな呼び名の赤色が存在していました。それらの色の葉が山を覆い、その姿はのちの「学問の神様」をも感動させました。今も錦のような紅葉は楽しめますからその様子は想像にかたくありません。


 さて、菅原道真といえば「学問の神様」。「学問の神様」と言えば太宰府天満宮ですね。九州に左遷されるときに詠んだ歌があまりにも有名なので、百人一首には選ばれておりませんが、ここに付記させていただきます。


 東風こち吹かば にほおこせよ 梅の花 主なきとて 春な忘れそ

(東の風が吹いたなら、梅の匂いを私のもとまで届けておくれ。主人がいないからといって春を忘れてはいけないよ)「拾遺和歌集」


 目に浮かぶような色鮮やかな秋の歌に匂ってきそうな春の歌。五感にしみいる三十一文字みそひともじですよね。綺麗。美麗。そして秀麗。

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