心のよりどころの月           007

7 天の原 ふりさけ見れば 春日なる 三笠の山に 出でし月かも

 あまのはら ふりさけみれば かすがなる みかさのやまに いでしつきかも


【カテゴリ】人生

【タグ】男性 貴族 奈良 古今集 月


【超訳】やっと帰れる。

この中国から見える月も、あの故郷の三笠山の上に出ていた月と同じなんだよな。ようやく帰れるんだなぁ。


【詠み人】安倍仲麿あべのなかまろ

遣唐使に従って留学生として中国・唐へ渡った。玄宗皇帝(后が楊貴妃だったことでも有名)などに仕え30年近く中国に滞在した。望郷の念が募り、帰国が許されたが、船は難破し、安南(現ベトナム)にたどり着く。結局、唐に戻り故郷に戻ることは叶わず、かの地で亡くなった。


【決まり字】あまの(3)


【雑感】これも有名な歌ですよね。字面を見ていると、広々とした夜の野原の向こうに三笠山が見えて、その上に美しい月が浮かんでいる光景が目に浮かびます。百首中唯一異国で詠まれた歌です。

 この歌は30年以上唐で仕え、望郷の念にかられ帰国を許され、仲間達が開いてくれた宴で詠んだ歌とされています。帰国が決まってようやく故郷に帰れることになり、どんなにか嬉しかったでしょう。あたりまえですが、月は地球のどこからでも眺められます。きっとそれまでもその月を見ながら故郷に想いを馳せていたことでしょう。三笠山の上に浮かぶ月をようやく見られると思っていたのに……。

 船が難破して帰国は叶わず、彼は唐の地で亡くなられました。中国に渡ってから54年が経っていました。今と違って海外へ行くことなんて一生の一大事。時間もお金もかかるし、何度も帰国の機会もなかったのでしょう。

 こんなにも故郷を想っていたのに、この歌を詠んだあとも実際の故郷の地を踏めなかったかと思うと胸がしめつけられます。こうした方々が昔から日本と世界を繋いでいてくれたのです。さまざまなことを学び、世界から中国から文化や風習を日本へ持ち帰り、日本をよくしてくれました。そのまた逆もしかりです。日本の誇りを世界に広める。

 世界と仲良くしないとね。世界は素晴らしいし、日本も素晴らしい。それぞれ認めて手をとりあえるのが一番だよね、とつくづく思います。

 月にはさまざまな力があると思います。地球の人々を照らす。導く。地球の人々の想いを受ける。あの月の下には故郷がある。あの同じ月を懐かしい人々も眺めている。心のよりどころとなる永遠の月。そして対照的に儚い人の命。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る